虎鉄は風呂から出て、
タオルで髪を拭きながら、ベッドに座る俺をちらっと見遣り、
冷蔵庫からコーラを出して飲み、
再び洗面所へ消えた。
顔に化粧水を叩いたり、髪を整えながら乾かしたり、
朝支度にも寝支度にも時間がかかる男だ。







EAT ME! part2





「眠い?」
俺の隣に座りながら虎鉄は聞いた。
「いや、なんや目ぇ覚めたっちゃん」
俺から行っていいものかどうか考えあぐねる。
「腹くくっTa?」
「……お前、ほんとによかのか?」
「いいZe?」
顔を覗き込まれ、冷静を装うも、心臓は早鐘を打ってる。

「猪里、緊張してんのKa?かわEーな」
可愛いと言われて、吹っ切れた。
「可愛いとは、お前やろ」
口づけると、引き返せなくなったと悟った。

着たばかりのTシャツを脱がせる。
「いきなRi?」
「なん?やっぱ、腹ぁ括りきらんとね?」
虎鉄はゆるく頭を振った。
「猪里に脱がされるなんTe、新鮮だかRa」
「嫌なん?」
−−−いかん、刺々しい言い方してしもうた。
「イヤじゃないけDo」
「なら、いいやんね?」
「ん……」
−−−ちぃと焦ってしもうたな……虎鉄にもバレとるやろな。
ちょっと可笑しくなって笑みが溢れた。
「なに?」
「……俺、童貞ごたるやん、思って、や、実際、童貞なんちゃけど」
「Ha、ha、"初めて"がオレでEーのかYo?」
「俺は、お前がいい」
目の前にある目が、見開かれた。
虎鉄は『猪里がいい』と言った。
返事にするつもりはなかったけど、返事になった。

手がするっとTシャツの裾から入って、見つめられた。
お前も脱げということらしいので、脱いで放った。
肩を抱き、後ろへ倒すと、驚いたようにまた目を見開いた。
−−−逆やち思ったと?抱き寄せらるぅっち?
ハーパンも引き下ろす。
「電気、電気消しTe!」
「あ?あぁ……」
照明の紐を引っ張ると闇に包まれた。
−−−真っ暗やん。さっぱり面白ぅないっちゃん。
すかさず枕元のスタンドを点ける。
「えぇぇー」
下から上がる不満げな声。
「いいやん?処女か」
「……処女じゃねーKa……」
「……?……あ、そうやね、ごめーん」
今更な恥じらいが可愛いと思う。

上から覆いかぶさり、
髪の中に手を入れると、いい匂いがして滑らかで気持ち良い。
「好きだよNa……髪さわんの」
バンダナの下の髪をこんな風に触れるのは、俺だけだから。
「うん……」
深く口づけ、犬歯を舌で突く。
この歯が覗く表情も、俺は常々、可愛いと思ってる。

口の端から垂れた唾液を親指で拭ってやると、
瞳が艶かしく揺れた。
そのまま唇をゆっくりなぞり、柔らかいな……なんて今更思う。
「エロいNa?」
触り方が?
−−−お前に教わったっちゃけどな……唇は性感帯やちことも。
「……なに考えてRu?」
「……悪かこつ」
「どんNa?……コレ?」
親指がぱくっと捉えられ、舌が巻き付く。
温かく湿った感触に気持ちは逸る。
「……そう、やね」
見つめられながら、
吸い付くようにしゃぶられ、身も心も否応なく昂っていく。
「EーコトじゃねーKa」
ちゅっと俺の指にキスして、いたずらっぽく笑う。
−−−愛らしか……
気がつけば、あの夜と同じように、
虎鉄の首に吸い付いて、
いつしか乳首を弄っていた。
「んッ!」
反応に気を良くして、舐めたり、甘噛みしてみたり。
「ぁ、ん、」
これまでも俺から弄ってみたりしたことはある。
でもこんな甘い声は聞いたことがなくて、思わず顔を上げた。
「今更だけDo、」
きまりが悪そうな顔。
「こーいうの、乳繰り合うって言うのka?」
照れ隠しなのがバレバレだ。
「俺ら、乳ないばってんな……てか、声、可愛いやん」
「猪里〜〜!スルーしろYo!」

股間に手を伸ばし、
"お菓子よりいいモノ"を触ると、体がびくっとしなった。
触り合いなんてしょっちゅうしてるのに、今日はえらく敏感みたいだ。
ボクブリをずらして、直に触る。
「ッ!」
握ったまま顔色を窺うと、
もっと触って欲しそうで、
息を弾ませ、俺の手に手を重ね、動かそうとする。
−−−焦らしたつもりは、ないっちゃけど。
いつだったか虎鉄は、可愛いから追い上げたくなると言った。
−−−そげん気持ち、ようわかるっちゃんね。
「しゃぶる?」
「……N」
ずり下がり、舌を出して、先っぽを突く。
「ァ、ッ」
下から舐め上げるとぐっと嵩が増した。
「ぅ、ッ」
腕で口を抑えて声を堪えている。
−−−俺には声ばこらえるなっち言う癖に。
「ン、ン、」
咥え込み、舌先で鈴口を刺激するようにしゃぶる。
いつもなら俺は、”いいモノ”が欲しくてむしゃぶりついてるけど、
今日は、違う。
−−−イかせちゃーけん。
溶けろとばかりに口と舌を使うと、
頭を鷲掴みにされて、絶頂に気づく。
「猪里、もぅ、」
口から出すのと同時だった。
「うわ」
喉と胸に盛大に浴びた。
「……わりぃ」

さっと拭いて、下着を脱がせる。
吐精したばかりな所為か、やりやすい。
「ちょ、おい、」
それでも、足をぐいと広げるとやや抵抗した。
「俺もヤラれたやん?ぱかーって、初めてやったとに」
忘れたなどとは言わせないとばかりに、太腿の裏を撫であげる。
「いッ、」
良い反応が返ってきた。
「猪里は可愛いかったYo?すっごく!すっごく可愛かったかRa!」
「ばかも休み休み言え。マッパで股おっぴろげた男が可愛いワケのなかろーもん」
「ひッ、ひDe!まさに今のオレがSoーじゃねーKa!」
「はは、そうやったね、可愛いかよ……赤ずきんちゃん」
「う、わ、」
虎鉄は両腕を交差させて、顔を隠した。
「挿れるよ?」
指にローションを垂らして、伺うと、
顔を隠したまま頷いた。

「痛い?」
「痛くは……Naい……ハズい……ハズくて死にSo、ぅ」
腕が邪魔で口元しか見えない。
力ずくで腕を除けたら、怒るだろうか?
「恥ずかしがらんで良かとに……可愛いかよ?」
無言で唇を噛んでいる悔しそうな口元に煽られ、
抜き差ししている指を増やすと、
「Ahッ」
腕を解き、キッと睨んできた。
「ズリぃYo!」
「何が?狡いと?」
「”赤ずきんちゃん”はズリぃだRo!」
傍らのクッションを鷲掴みにして、腹の上に乗せて隠した。
今度はそっちを隠すのか。
「え~?いまさら隠すとか?」
「隠させてくれYo!」
ちょっと苦しそうな、上気した顔に煽られる。
“下”にいる時、俺もこんな顔をしているんだろうか?

「ちょい萎えてしもーたやん?やっぱ、キツか?やめとく?」
「……いや、いいYo、続けろYo」
虎鉄は薄目を開けて”俺”をちらっと見た。
「ソレ、もう、やめらんねーだRo?ギンギンじゃねーKa」
「うん……引いた?」
「いっぺん、抜いとくKa?」
「気ぃつかわんでよかよ」
「おいおい、挿れるなり”暴発”なんてコトNi?」
狼は暴発のため、命を落とす……悪くない。

暴発上等な俺は、ゴムを取り出し、個包装を噛みちぎり破ろうとした。
いつもの虎鉄の真似をしてみただけだ。
しかし、彼の不安そうな面持ちは、俺のスイッチを押したらしい。
ふと、顔を寄せ、咥えたまま囁く。
「噛んで」
前歯で個包装を噛んだままだから、くぐもった声になる。だけど、意外と喋れるもんだ。
「は?」
目の前の顔は戸惑いを隠せてない。
「な、んDe?」
「共同作業」
ほらお前も噛めとばかりにぐいと突き出すと、おずおずと口にした。
犬歯が覗く。酷く煽られる。
「しっかり噛んどき」
ギリッと噛み締めたのを確認して、勢いをつけて頭を逸らすと、
"中身"が溢れ落ちた。

再び足を開かせる。
「力入れんとき」
「ッ、」
「痛い?」
「ゥ、Ah〜、少し?」
「お前カラダ柔らかいけん、”下”のほうが向いとるっちゃない?」
でも、こんな軽口を叩く余裕がなくなってきた。
この器官に個人差などないのなら、
虎鉄はこの感触をいつも味わっているのか。
−−−そうなんか……
頭を過った気がする。けど、それは、ほんの束の間で、
俺の動きに合わせて揺れる体に、
汗ばんだ肌に、
漏らす吐息に、
"俺"に纏い付く熱くぬめった感触に、没頭した。
夢中で腰を使ってしまう。
迫り上がってくるあの感覚は、押さえ込みようがない。
「あ、もう、いかん」
熱に滲んだ目と目が合って、限界だった。
「は、はぁッ、」
虎鉄の上に体を預ける。
「……イッTa?」
「……俺、暴発?」
「Ha、ha……そうかもNe」
「くっそ……」
起き上がり、引き抜くと、顔を顰めた。
「仕切り直しったい」
「Ha?」
俺の股間と伸ばす手の先を交互に見て、目を丸くしている。
そう、ゴムの箱は虎鉄の頭元に転がってる。
「うSo……?」
「お前、まだイッてないやん」
急いでゴムを装着し直す。
「ちょ、まっTe、」
「イかしちゃる」
あてがい、
「アッ」
挿し入れる。
「絶倫かYo?!」
足を担ぎ上げ、しなる体にのしかかる。
これをやられると俺はちょっと苦しいけど、こいつには造作ないらしい。
「やーらかいな?」
耳元に囁く。
「なに、Ga?」
「体が」
「Ahー、ソッチ……」
「ん?"中"は……ちょいキツかばってん具合良かよ?」
「……具体的に言わなくてEーから!」
「奥まで?」
「あぁ、キてるZe」
何か言いたげな目をしている。
「なん?」
「今日は、余ってんの、オレのだNa?」
思い出した。
あの夜虎鉄は、男二人だとどうしても”一本”余ると言った。
−−−気にしとったとか?
  ずっと気にしとったけん、今日『してYo』なんち言うたとや?
「虎鉄……」
愛おしさが込み上げて、たまらなくなる。
「余らせて……ごめん」
「なんで、謝るんだYo?」
「……」
「突っ込んだまま、しんみりすんじゃねーYo……ホラ、腰いれろYo!」
俺の腰をベチッと叩いた。
「……好いとーけんな、虎鉄」
「うん、オレMo」
首に腕を回され、引き寄せられる。
ゆっくり動きながら口づけあうと、
また、あの熱が押し寄せてきて、止まらなくなる。
「アッ、」
のけぞって喘ぐ姿に、見惚れる。
「虎鉄、ここ?」
「……ん、よくなってきTa、続けて、Yo」
潤んだ熱の篭った目で、吐息まじりに『続けて』なんて言われたら、堪らない。
どうしようもなく、突き上げてしまう。
「ァ、ッ、ン」
また唇を噛み声を堪えているから、指でこじ開ける。
「……ッ?!」
「声、聞かせてん?」
返事なのか、夢中だったのか、ギッと噛まれた。
「いたッ」
「……ッ、フ」
揺さぶられながら、微笑んだ。
−−−あーもう、愛らしか!
俺のほうこそ夢中だ。
セックスなんて、繋がっているのは、一点でだけだ。
なのに、夢中で、全身で感じて求めてしまう。
二人の腹の間で所在なさげに揺れるそれを掴む。
「ッ、」
親指の腹でぬめるその先端を捏ねくる。
「ァ、ッ!」
扱き上げると、ぎゅっと締められる。
「ちょッ、動けん、」
「あ?あぁ……」
返事なのか、喘ぎなのかも、わからなかった。
二人とも息が上がって、昇り詰める。
「も、イKu、ッ、ッ」
生温かく飛び散るそれを認めて、
俺もまた、達した。
「は、はぁッ、」
「ァ、……猪里……、」
ゴム越しに虎鉄の中に出続ける。
「すげー……出てんじゃNe?」



幸せだ。
でも、ちょっと気怠い。
虎鉄はかなりだろう。
途中から全く制御不能に陥ってしまった。
我慢できなくなると言う虎鉄の気持ちが良くわかった。

二人して布団に包まり、向き合って目を見合わせると、
虎鉄は少し照れたような顔をしていて、可愛くて、
足先でちょいと脛を突いてみた。
「N?」
「なあ、お前みたく、オッサンげなこつ言うちゃろか?」
耳元に唇を寄せると、
何を言われるのかと、ちょっと警戒してる顔がまた可愛い。
「ばり良かったばい……赤ずきんちゃん」
できるだけ低く囁いた。
「猪里……もぅ、」
虎鉄はぎゅっと目を瞑って、顔を赤くした。
「勘弁しTe……ソレ言われるの……ハズいかRa!」
「そう?」
頬を撫でると、そろそろと目を開けた。
「なあ、オレ、突っ込まれるほうの気持ち……わかっTa」
「そりゃそうやろ、今ヤラれたばっかやもんな、で、どげん気持ち?」
「……”初めて”が猪里で良かっTa」
「えっ?これから……するつもりね?他の男と?」
「マサka!しねーYo」
「俺とは?」
「えっ?」
「またしよーえ?」
「悪ノリしすぎだRo!」
「えー?今のでおしまい?もうせんとか?良くなかった?俺、ヘタクソやった?」
「おい、」
「どこがいかんやったか教えてくれんね?あ、ばってん、お前イッとったよな?勃っとたしな?」
「ガッつきすぎじゃNe?」
「……じゃあ、気持ち良かったと?」
「良かったYo!」
「あ〜、安心したばい」
「……なぁ、オレが言えるスジじゃNaいとは思うけどYo、」
「なん?言ってみんしゃい」
「猪里……なんか……怖ェんだけDo!」
怖いと言われて心外だ。
「怖い?どこが?」
お前のほうこそ怖かったよ。
『してYo』と真っ直ぐ見つめられて、心臓が跳ね上がったよ、
なんて思ったけど、言わないでおく。

「ゴムは、ヤバかっTa……なんだYo、共同作業っTe!」
「プッ」
ああ、やっぱりそれか!と吹き出してしまった。
「あんなのドコで覚えたんだYo?」
「やー?わからん……なんや咄嗟に?」
「あんな共同作業になんの意味があんだYo!ビックリするだろーGa!」
「あはは」
「それにYo、ガッツガツくるんだもんYo」
「えー?俺、ばり紳士やったやん?どこぞの狼とはちごーて?」
「いーYa、猪里がGa!まごうことなき狼だかRa!The King of The Wolves だかRa!」
「違か。お前」
「オレなんかひよっこオオカミだYo。
 拝んで拝んで拝み倒してやっと2回目ヤラせてもらえんだろーGa!」
「あはは、そういや、そうやね」

「なんか混乱してきたじゃねーKa。
 オレは実際、オオカミなのKa?あんま認めたくねーけDo、赤ずきんちゃんなのKa?」

「んー?今日は赤ずきんちゃんやね」

「やっぱりKa……狼は……ホントは、猪里だったんDa……オレじゃなかっTa」

「お前、可愛いんやもん……我慢できんかったっちゃもん……」

「ちょっToぉ、オレの真似すんNoやめてくれまSu?」

「ばり可愛かったもん、またヤリたいっちゃん!」













よりぬきお題さん。