※「諦めたくない」(虎猪1年生)の少し後のお話






「気張れよ!!」

虎鉄の背中を思いっきり叩いた。
「ッ!」
ヤツはよろけて、持ってたソフトクリームを猪里の胸に当ててしまった。 

「冷たッ!」







03.ハイテンション







落下は免れた。
だけど、白いクリームが猪里の胸から腹、へそ、水着の穿き込み口までつたった。

「はは、ごめーん」
「猪里、わりぃ。長戸のせいだからNa?」

謝りながらも虎鉄は、クリームの散った腹をガン見している。
悪戯を思いついた俺は、
猪里の肩からタオルを抜き取った。

「なっ?!返しい!」

「ほらよ!」
無視してタオルを虎鉄に放ると、空いた方の手でキャッチした。

「Ha?」
ぽかんとしている。

俺は素早く猪里の背後をとって、羽交い締めにした。

「長戸?!なんしょっとか?!」
「あばれんなって、虎鉄が拭いてくれっから!」
「なして?!一人で拭けるけん!」

虎鉄は右手にタオル左手にソフトクリームを持ったまま戸惑ってるし、
猪里は俺の腕から抜けようともがいてる。

「早く、虎鉄!」

虎鉄は一歩踏み出し、おずおずとクソ真面目な顔で拭き始めた。
どんな顔をすれば良いのかわからないらしい。
俺は、猪里の肩に顎のせて「もっとフツーに!」
と声に出さずに口の動きで伝えた。
「ん?Ahー……HaHaHa、」
伝わったらしい。
「長戸のヤツ、ワケわかんねーよNa?」
虎鉄は笑いながら無遠慮にゴシゴシ拭きだした。
傍目にはくだらないことでふざけてる三人組に見えるだろう。
実際ふざけてるんだけど。

「拭かんでよか!長戸、放しぃ!」
「どうどう、猪里、」
「俺、馬やなか!」
「ほら、きれいになったZe」

腕を解くと、
猪里は睨みながら後退りした。
「お前ら、なんね?!まだベタベタするし!」
悪ふざけには付き合っとられん!と言わんばかりだ。
「何がしたいとね?!いっちょんわからん!」
くるっと後ろ向いた。
「ばーか!」
振り向きざまに言い放ち、
プールに飛び込んだ。

かなりどろどろになったソフトクリームを急くように食べながら、
虎鉄は呆れたように呟いた。
「……お前Na……」
「どうよ?あの腹、目に焼き付けたか?」
「……エロかっTa……」
「今夜のオカズにでも?」
「ああ、そうさせてもらうZe……って、あのNa!」
「あの白いの、お前の?猪里の?どっちを想像するよ?」
「Ha?」
「あー、混ざっちゃったってのもあるか……
 お前、俺よりよっぽど想像力があんだろーが?どれよ?三択よ?」
「長戸……」
「俺はやっぱ、混ざっちまったってのが、一番エロいと思うなー?」
「もうカンベンしTe……ドキドキが止まんNeえ!」

俺は猪里の背中に密着してたから、特別な情報もおしえてやれる。
「なあなあ、猪里の肌ってな、」
「肌?」
「もう、スッベスベ!」
「クソッ!」
虎鉄はコーンに付いてた紙をぐしゃっと握りつぶした。
自分は触れないのに!腹立つ!ってとこだろうか。
コイツがこんな風に、
好きなコに振り回されてるのは、かなり珍しくて面白い。
だから、つい調子に乗ってしまう。
「スッベスベだったから!」
「わかったかRa!」
「なんだろ?あったけぇ雪見だ○ふく?いやちょっと違うな……」
「もういいYo!」
「俺んちの一番下の弟の……尻みてえな……?」
「まだ幼稚園じゃねーKa!」
「ウチの弟、触りに来んなよ?」
「行くかYo!」
「乳首もピンクいし、猪里ほんとに俺らと同級?高一?」
「……」
「ま、スベスベお肌は、自分で確かめるこった、なあ?」

虎鉄は、キッと一瞥をくれた。

「いいZe、確かめてやろーじゃねーKa!」

タオルを俺に放り、プールサイドを突き進んだ。

「おい、」

腕を両耳に手を揃え、頭からきれいに水に飛び込んだ。

猪里は他の奴らと遊んでる。
その背後にぐいぐい泳いで近づいていってる。

「猪里ー!」

「虎鉄?なに?!」

「水中プロレスやろーZe!」

「えッ?」

虎鉄は、友達の立場を利用しようとしてる。
今はそうするしかないから。

「不憫なヤツ……」

だから叫んだ。

「虎鉄ー!順番まちがえんなよー!」

猪里は怪訝そうな顔をしてる。
そりゃそうだろう。
真っ直ぐやら順番やら言われたって、わかる訳ない。

「わかってるYo!」

虎鉄は猪里の肩を抱き、満足そうな笑顔で叫んだ。