「ッ?」

尻を撫でるとびくっと震えて、振り返った。









Breathless








「虎鉄?!何考えとっと?!」
「カワEー猪里のコト」
後ろから頭を掻き抱いてキスする。
「ふ、あ、明日は試合ったい!」
「わかってるZe~」
「やったら…、ぅ……!」
深く口づけて舌を巻き取ろうとしても、絡ませてくる気配はナシ……当たり前か。
「早ぅ、取って……んんっ」


掌に吸い付いてくる肌の感触を愉しみながら、太腿から尻を撫で回す。
「……しあ、い……」
「N、わかってるっTe」
手を前に、薄い布越しに猪里のモノを握ると、
払い除けようとする手が、不埒なオレの手首を掴んだ。
「いかん、虎鉄!」
上下に動かすだけじゃないぜ、ヨくなる方法は。
親指の腹で先っぽを捏ねてやると、すぐに反応が現れた。
「あ、ぁ、」
「扱くだけ、Na?」

布越しだと直に触られるよりも微妙な刺激が加わる。
抗議の声は、更に途切れ途切れになっていき、
言葉とは裏腹に、それは張り詰めてきた。

オレら、ダンシでコウコウセイ---
ちょっとやそっとヌいたところですぐタマっちまうのは、これ自然の摂理。

「ん、ん、あ、」
密やかな可愛い声を聞かされる。
その上、びくびくっと腰を揺らしてオレの短パンの中身を摩るように刺激するもんだから、
完全に火がついちまった。

「ダメ、とまんNe」
ドウニデモナレと脇腹を抱えてこちらを向かせた。
「虎鉄?!」
床に膝を付き、
ぴらっと布を持ち上げ、頭を潜り込ませる。
「ぎゃ、ちょッ?!」
天蓋付きみたいで、なんかイイ感じ。
「猪里、スゲーJaん?」
指でソレを下へ押さえ、放すと、
「ッ!」
勢いよく跳ね上がった。
「イかせてやるYo」
手を添え、舌を這わせる。
「あッ、」
顔は全然見えないけど、膝が小刻みに震えてるのが目の端に入る。
舌技にも自ずと熱が入るってもんよ。

ねっとり舌を絡ませながら袋を揉みしだくと、
口の中に先走りの味が広がった。
「ァ、もぅ……ッ!」
上から降る余裕の無い声に気を良くする。
だけど、
腹に一物あるオレは、あとほんの一扱きでイクってとこで口から出し、
被っていた前垂れから顔を出した。

「……?」
ここで止めたらツラいのは、百も承知。
「オレもヨクしてくれYo?」
「え……?」
上気した顔に、躊躇いの色が見える。
「しゃぶり合うNo」

言ってみるもんダ。
猪里は小さく頷き、
オレの頭から、肩、腕へと手を滑らせながら横座りになった。

「な、電気……」
猪里は明かりの下でコトに及ぶのを嫌う。
仕方なく伸び上がり、常夜灯だけ灯るように紐を引っ張った。
この姿が見えにくくなるなんて残念だ……すっごく。

オレが短パンを下着ごと脱ぎ捨てると、
猪里は、ちょっと恨めしそうな顔をした。
「これ取って?」
男としてこのフリフリエプロンはかなりの屈辱だろう、ってのはよく分かる。
自分なら全力で願い下げだけど、猪里にはすごく似合ってる。
だからさ……今更取れないよな?

肩を抱き、口付け、押し倒す。
「虎鉄ッ!」
この行為こそ、オレの返事。

首筋に吸い付き、軽く甘咬み、
「は、ぁ、」
「今日だけ、だかRa、」
いつものお強請り。
「あ、とで、」
「N ~?」
「くらしちゃー…けん……」
「上等☆」
「ばか」
そのまま一気に69へ雪崩れ込む。

横向きに前垂れを跳ね上げ、咥えると、
猪里もオレのを咥えた。
ア、ア、そこは勘弁、弱いんだって……知ってるクセに。
どうも弱いトコロを重点的に攻めて早く終らせよう、って寸法らしい。
そうはさせNeーと、先っぽに歯を立ててやると、
「ん、ぐ、」
苦しそうなくぐもった声を出した。


猪里は先に刺激されてる分、早くイキそう。
「……ぅ、ッ、出る」
呻き声が聞こえるのと、
微か、でも確かなビクつきを舌に感じたのが同時で、
慌てて口から出し、アツイ迸りを手で受けた。

「はえーYo」
「なッ?お前のせいったい!」

ティッシュで手を拭いていると、
猪里はもうお終いとばかりに、だるそうに起き上がろうとした。
空かさずその体を捕らえる。
「わっ!」
尻をコッチ向きに四つん這いにさせ、足から下に潜り込む。
「やっ!放せっ!」
腿を抱き込むと抗議の声が上がった。
「やDa、オレがマダだもN 」
逃げようと暴れるから、腕に力を込め更に封じる。

「しちゃーけん!」
「Oh、そうこなくっCha☆」

諦めたようにゆるゆると力が抜けていくのがわかる。
「……放し、て……」
消え入りそうな声を下腹に押しつけられた。
どうもこの体勢が恥ずかしいらしい……暗いとは言え、丸見えだもんな。

でも、悪いけど、聞いてはやれない。
「このままヤッてYo」
「?!」
「オネGaい」
「……2発、いや、5発」
「いいZe~何発でも殴らせてやっか、Ra…ッ!」
軽口を叩くが早いか、咥えられていた。
アイスを舐めるみたいに舌先で転がされる。

……キモチイイ……マジトロけそう……


これから受け入れさせるソコへ舌を這わせて、
「んッ!」
跳ね上がる腰を逃がさない。
舌に唾液を載せ、突っつくようにすると、いきなり腰が砕けた。
「あ、ああッ!」
絞る声がまた、足の付け根に響いた。

「やめ、んね!」
「猪里、窓開いてんZe?そんな大声出すと聞こえちゃうZe?」
「…ッ……」
「風呂で洗っただRo?」

返事を待たずに再び舌で刺激する。
「ぅ……く、」
漏れる声を必死で我慢してる。
勃った猪里のモノから先走りが俺の胸に垂れ始めて、
塗り付けながら指を使えば、もう熱く解れて、準備は完了?

「入れてEー?」
「……いかん」
「ココはホシイってひくついてんZe?」
猪里は感じやすくなってるみたい。
「あッ、はぁ、」
尻を撫でるだけでイイ声を上げた。

伸び上がり、いつもの引き出しから、手探りでローションのボトルを取り出す。
気づいて逃げようとする太腿に腕を回してがっちりホールド。
「きさん!」
「ちょっと、我慢しろYo?」
「虎鉄のバカ。死んでしまえ」

それでも、液塗れにしてやると、猪里は観念したように呻いた。
「……ぅーッ」

返事も待たず、次に移る。
ひっくり返し、仰向けに足を開かせると、
猪里はなぜか、エプロンの裾の乱れを素早く直した。
その仕草に目を見張る。
おいおい、今更どうしたっての?
予想以上の収穫にほくそ笑むけど、オレはそれどころじゃない。
早く挿れたくてタマんなくて、足を掴んで肩に抱え上げた。

「いかん、いかんって」
猪里は、身を捩って逃げようとする。
そんなのは、雄の本能に火をつけるだけなんだっての、わかってねぇな……

「明日に響かないようにするかRa」
「嫌っちゃ」
足の裏が、ビタンと頬にヒットした。
ヒデェ。
足癖の悪いお姫様に苦笑しつつ、
本気で嫌ならとっくに殴られてるハズ、だとオレは踏む。

ここで拗ねられたら目も当てられねェから、
既の所で言いかけた「わかってんだZe?ホントは欲しいんだRo?」ってセリフを飲み込んで、
あてがい、そのまま挿し入れた。
「う、ッ……!」
「もう3発殴っていいかRa。」
熱く、キツく、絡み付くから、堪らナイ。
それでも堪えて、初めはスローに。

「あぁ、こ、てつ、」
名前を呼ばれると、駄目だ。スゲェ興奮してくる。
太腿を打つ音が響くほど大きく、
「あッ!」
時に抉るように深くグラインド、もう止まらナイ。

「いッ、痛か、」
腕に食い込む指先、途切れ途切れの声が、痛いと訴えた。
「Oh、ごめN 」
気持ち良過ぎて…つい、なんて言い訳しようとしたら、どうも違うらしい。
「紐が、」
猪里は、片手を後ろに顔を顰めた。
固い床の上でヤッてるせいで、大きくて硬いコブ状の結び目が腰や背中に擦れて痛いらしい。
「解いて」
「カワEーのに……」
繋がったまま、ぐいっと猪里の両脇を抱えて引き上げる。
「は、ァん!」
外れそうになったけど、なんとかイケた。

座位になり、何か言いたげな口に深くキスする。
「ん……ぅ、」
猪里の後ろに両手を廻して、手探りで解く……フリ。
そう、フリだけ。
解く気なんて、はなから無いよ。

柔らかな唇に名残を残し、
ちゅ、
わざと音と立てて、ゆるりと後ろへ倒れた。
猪里にはちょっとアクロバティック過ぎたかも?

「……?」
キスの途中で放り出された唇と舌が、まだオレを求めて彷徨ってる。可愛い。

体勢は、対面座位から騎上位へ。
結び目が痛いなら、バックもいいけど、感じてる顔見たいし……
と言えば、やっぱコレだろ?

「や、何これ……?」
「動いTe、猪里」
「………出来ん」
「ホラ、頑張っTe、腰使っTe、」
下から一回突き上げて、
「アッ!」
放置。
「当たっTa?」
返事も出来ないくらい感じたらしい、上体が崩れそうだ。
「こげんと、いや…ばい…」
オレの腹に片手を付き体を支えた。
「猪里が動かねーTo、いつまでたってもこのまんまだZe?」

猪里は潤んだ目をして、見下すように睨んだ。
「お前げな好かん。解いてって言うたとに」
「そんなコト言わずに動いてYo…猪里、愛してRu」
汗ばんだ腕を撫で摩り、強請ると、
猪里は諦めたように一つ息をつき、腰を使い始めた。
「んッ、」
あ……スゲェ、イイぜ……

「は、ぁ、あ、あッ……」
今日は蒸し暑い……なのにオレら汗だくで絡み合って、それも床の上で。

さっきから探してたモノ、オレはどうやら探り当てたみたいだ。
コードを掴み、手繰り寄せ……る…………ビンゴ!
そのスイッチを押すと、猪里は眩しそうに目を細めた。
「ちょ、消しぃ!」
「ヤダ。消さNaい♪」
だって猪里が可愛いから……恋人の媚態は見たいもんだろ?

珍しいことに、それ以上のお咎めは無かった。

スタンドの灯りが、匂い立つよな艶姿を嬲って---

エプロンの肩紐が片方ずり落ちて、二の腕で止まって、
それに吊られ、胸当てもやや下がり気味、
猪里の動きに合わせ、桜色した胸の突起が見え隠れしてる。
前垂れは猪里自身を被い隠してるけど、
その確かな存在を誇示すように張り上がって、先走りが染み出してる。

とろんと快楽に潤んだ目も、光る玉の汗も、吐息も、
全てが、オレを狂わせる……盲滅法、腰を振り上げたくなるのを必死で堪える。

「N、その、調子、」
何が"その調子"なもんか、余裕なんて全然ありゃしねェ。
このぎこちない動きに、マジ嵌っちまったみたいだ。
乗り上げるように裏スジを摩られると、
声まで漏れそう。
「ッ!」
ヤバいって。気を抜くとイッちまうって。

こんな焦りを知ってか知らずか、
猪里はオレの手を、彼の熱い猛りへと導いた。
扱いてイかせて欲しいらしい、喘ぎながら見詰めて来た。

さっき猪里のこと直球だって言ったのは、かなり失言。
シンカー?ナックル?スライダー……?
こんな可愛い変化球ばかり投げ込まれちゃ、打ち返せやしないぜ?
ツースリーってとこ、そう、アウト寸前。

そのまま扱いてイかせてもよかったけど、
布をめくり上げ、本人の手で握らせてみた。
「ぁ?……なし、て?」
「見せTe、猪里の、」
オレの目論みを一瞬で悟ったらしい。
猪里は歯を食い縛り気味に、いやいやをするように首を振った。
「そげな……」
汗が、白いこめかみを伝い落ちた。
「出来ん」
「出来るだRo?いつもどういう風にヤッてんのか見せてくれYo」

眼差しが、鈍い灯りを映して揺れ続ける。
躊躇い、恥じらい、
頭ン中で渦巻いたって、体の要求には勝てない、
中心で疼き続ける熱いモノぶちまけて、突き抜けるソレを感じたい……そんなトコ、そうだろ?
オレだって、そうだぜ?

猪里は、切羽詰まった風に握り込み扱き始めた。
「ん、ッ、」
しかし、自分のを扱きながら動くってのは難しいのか、
慣れてない所為もあるのか、腰の動きが止まってしまう。
焦れたオレは、猪里の腰を掴み、とうとう下から突き上げた。
「ああ、ッ!」
「N 、そのまま、ヤッてろYo」


「は、あ、あ、」
そろそろ猪里は、二度目の絶頂が近そう。
てか、オレも限界。
猪里の手の動きが速くなって、
「あ、あ、こて、つ、」
いつものあの、きゅっとなる締め付けが来て、
「Nッ……!」
オレも同時だった。
なけなしの理性が中に出すのを躊躇わせ、
慌てて腰を引く。
尾を引く吐精が、猪里の内腿を濡らし続けた。

猪里は前垂れの内側を濡らして果て、ゆるりと体を預けてきた。
「はぁ、はぁ……」
首筋に息がかかって、くすぐったい。
ちらり、見遣ると、
なんて顔をしてんだろう、
満ち足りたような、それでいてちょっと苦しそうな表情にそそられる。
イッたばかりなのに、血と熱が中心に集まるのをどうにも抑えられない。

体をずらし、猪里の下から這い出る。
後ろから添い寝すると見せかけ、片足を持ち上げて広げさせると、猪里は少し抵抗した。
ゴムのパッケージに描いてあった、これは、
「窓の月っていうんだZe?」
耳元で囁き、尻にガチガチに堅くなったモノを押しあて、貫く。
「ああッ!」
「で、さっきのが、時雨茶臼Na」
腰を振り立て揺さぶりながらのレクチャー、分かり易いだろ?
「猪里が読み方、教えてくれたんだZe?」
猪里は、喘ぎながらかぶりを振る。
「忘れたNo?」
後ろから胸の突起を摘むと、体を捩った。
「ん、ん!」


明日は、試合---
なのにオレら汗だくで絡み合って、それも床の上で。
明日は明日の風が吹くサ、なんて言ったらお前は怒るだろうな。

「ァ、いの、り、」
「バカ、虎、」
「オレさ、」
「しゃべんな、あ、ッ、」
「朝になったらバターになってるかMo」
「は、あ……?」
「ぐるぐる回って、溶けてバターになった虎の話、知らNeー?」
「しら、ん、ん、」


猪里と一つになって、トロトロに溶けそうだ。

バターになってトーストに塗られて、猪里に食べられるっていうのも、いいかもな。


溶けて、混ざって、バカな虎。

そんなのも、いいかも。






















気怠くて、幸せな朝。



……何時だ?













……。



…………。



「8時ィ!?」

「うそッ!?」

二人で跳び起きる。

「間に合わーーん!」

今日は私立名堀端高校と練習試合なのに!

「やべぇ!」

「飯食っとう暇なかよ!はよ!」
猪里はパジャマ代わりのTシャツを脱ぎながら、叫んだ。

昨夜猪里は、気絶したみたいにくったり眠ってしまって、
エプロンを脱がそうとしたけど、すっごく固く結んじまってて、
結局、自分の仕業に舌打ちしながら鋏で切った。
その後、濡らしたタオルで汗や何やかやにまみれた体拭いて、パジャマ着せて、布団敷いて……
そうだ、目覚まし時計セットすんの忘れた……!

猪里は短パンから足を抜こうとして固まった。
「…ッ!」
昨夜無理させた所為で、腰にキたらしい。
「痛いKa?」
「くらすとは、後にしちゃー」
メデューサばりのもの凄い目で睨まれ、オレはうっかり石になりかけた。

「虎鉄、飯……あ!」
「?」
「出来てなかよ……どげんしよ!」

流しを覗くと、ちゃんと研いで水加減した米が……
「Ahー……」
これから炊飯器にセットして炊く時間……あるハズも無い。

オレが生まれたまんまの姿にエプロン付けただけってなエロ可愛い猪里に欲情しなければ、
今頃ちゃんと炊けていたハズなのに。
でも、あんな猪里を目の前にして欲情するなってのは、土台無理なハナシで。

「お前のせいったい!」
「……ごめんなSaい」
こういう時の猪里には逆らわないほうがいいってのは身に沁みてわかってるから、素直に謝る。

「金出せ、コンビニで買うて行くけん!」
カネ出せとか凄んじゃっTe カワEー山賊サンだNa
と軽口叩きかけて、慌てて噤んだ。
喉笛掻き切られたくないから、ここは真面目に返事しとく。
「Haい!」
着替えながら二人で財布の中身を確認。
「俺、今日仕送り入るとよ。やけん、金の無かとよ!」
見ると、1600円ちょっと。

「Ha、hahaha……猪里金持ちだNa」
「お前、どがしこ持っとっとね?」
「オレの2倍も持ってんJaん」
「はあ?!」
オレの現在の所持金は700と……56円。
「わりィ、親に金貰うの忘れTa……」
猪里の瞳がツンドラの大地のように凍りついた。

昨日の夜からオフクロが単身赴任中の親父の処へ行ってていなくて、
家にオレ一人だし、猪里ん家の方が少しばかり相手校に近いし、だから泊めて貰った。
お泊まりセットや試合道具一式取りに帰ったとき、
オフクロに「ここに置いとくから」って言われたのに、
テーブルの上のその軍資金を忘れちまったオレが悪い。どう考えたって、オレが悪い。
その上、試合前日だからHは無し!って、ガンガン釘刺されてたのに、
この体たらく……ああ、どう考えたって、オレが悪い。


名堀端高校までの往復運賃を差し引くと、
オレの所持金は限りなく0に近づいた。
「遠ぇーYo!」
走りながら文句タラタラなオレ。
男らしくないってのは分かってるけど、垂らさずにいられないっつーの!


コンビニに駆け込み、おにぎりを品定め、って言っても、
具が肉だったり鰻だったりするのは買えないから、
オレが持つカゴには、チープ且つオーソドックスな昆布や梅干しが放り込まれてく。


「犬飼って、いつも昼飯は食パン1斤なんだってYo。安上がりだよNa?試してみNeー?」
パンの陳列棚を横目に何となく提案してみたら、

「ぱ~ん~?」
胡散臭そうに睨めつけられた。
Oh、あいかわらずご機嫌ナナメっぽいですね。

「あ、うN……食パン……」

「食パンねえ……」
猪里は、そそくさと移動して食パンを一つ手に取り、吟味するように呟いた。
にべもなく却下されると思ってたから、意外だ。

「どう…Yo?」

お伺いを立ててみると、信じられない事が起こった。

猪里が、ニッコリ微笑んだのだ。
そりゃもう、食パンのCMに出られそうな笑顔で!

「ん~?」

---カッ、カッワEー!


「よかかもね!」


---やっぱ、オレの天使だYo!すげぇ拳持ってたって、天使だYo!
   マイダイナマイトエンジェルだYo~~~!!!


「これで170円!安かね!虎鉄、ナイスたい!」

「オッ、オウ、そうだRo?」
今朝からえらく気まずかったし、なんてったって今日初めての笑顔だし、
オレのテンションはうなぎ上りで、声まで上ずっちゃう。

「レタスも持って来たらよかったとー。
 トマトしかないけん、トマトだけのサンドになってしまうばい」

「……ごめN、元はと言えば、オレのせいDe……」

「ううん、虎鉄は悪ぅないっちゃよ?」
眉をハの字にした困り顔。
オレを覗き込んで、優しく慰めてくれた。

「い、猪里ッ……!」
やべ、泣きそう。
あわててカゴの中のおにぎりに視線を落とすと、鼻の奥がじんわり痛い。

「……じゃ、コレ……戻そっKa?」
顔を上げて、再びお伺いを立ててみる。

しかし、そこに彼はいなかった。

いや、いたのだけど、いなかった。


……オレのエンジェルは。

クリックリでキラキラの大きな目が、いつの間にか半眼になって鈍い光を放ってて……



「……いの…り?」



「戻すな!こんバカチンがっ!」


耳元で鳴り響いたイキナリな大声にびっくりして後ずさったら、
ドン☆
パンを物色中のオバさんにぶつかっちまった。
「す、すんまSe ん」
すげぇ睨まれたじゃねーかよ。ヒデェよ。

「米の飯ば食わんば、力の出んたい!
 きさん、そげんパンが食いたいとやったら、パンの耳でんもろーて来りゃよかったい!」

畳み掛けるような攻撃に、オレのHPはあっという間にレッドゲージ。
ぐぅの音も出やしねえ。

「……Huh、猪里チャン、」
オレは、やんわり抗議する。
顔があさっての方、詳しく言うと柱の方を向いてるのは、
まあ、なんだ、ちょっと恐いからなんだけど。

「何ね?」

「ノリツッコミなら、昨日とっても美味しくいただきましたYo……
 つーか、オレ、昨日のアレも今日のコレも、ボケたつもりなんて全然無いんだけDo……」
 しかし、今日のはまた……ずいぶんと可愛気が無いですNe……」

「知るか、そげんこつ!」
 
オレは、意を決して猪里を見据えた。
本日の食料が大変心許ないのは、オレが絶対的に悪いんだけど、
いつまでも虐げられてばっかじゃいられない。
そうだろ?
男が廃るってもんだろ?
てか、猪里はオレというダーリンを何と心得てんだ?

「あんまりじゃねーKa、いの「わー!早よせんば、遅刻ったい!」

店の時計が目に入ったらしい。
……間の悪い事に。

「きさんはいつまでん柱と話しとれ!しろしかっ!」

オレの手からカゴをふんだくって背を向けた。



レジに向かうお前の後ろ姿が、涙で滲む。
白カッターシャツから生えてる翼。
あれは、きっと、幻なんだろな……

さっき感激のあまり泣きそうになったことなんて、百年も昔に感じるよ。



……Oh,where is my angel?