事務所近くのマクドはこの時間空いてる。
トモキはハンバーガーのったトレーをテーブルに置きながら、
「さっきの子、可愛ない?」などと言う。
カウンター入ってる子はたしかに可愛かった。




気になるあのこ




トモキは俺の、フツーの会社で言うたら、同期みたいな奴。
この前、組長に「”ミツオトモキ”で漫才せえ」って無茶振りされた時は肝冷えたけど、
トモキが「すみません!ネタ合わせしてないんで!」てボケかましてくれたから助かった。
「おう?ほならお誕生日会🎂楽しみにしてるわ。
 ん?コンビ名はミツトモでええな?!みっともないってな?!がはは」
って言われたよな。さぶかったな。
漫才なんて見るのは好きやけど、自分らで演るなんて今まで思ったこともなかったから、
ネタってどこに落ちてんねや?ってそんなレベル。
ヤル気なんてさっぱり出ぇへん。いつものアホ話ばっかり。

「俺、四番さんが成田さんに耳打ちしたの聞こえたんやけど」
二日前のカラオケ天国からこっち、ちょっと妙に思ってることをトモキに振ってみた。
「成田さんの子供なんかな、あの子」
「は?」
「四番さんな〝狂児、お前子供おったんか?〟って聞きはってん。
 成田さんは〝ちゃいます~😄〟って笑うてはったけど」
「ちゃうやろ、ぜんぜん似てへんで」
「男の子は母親に似るいうやんけ。昔、どこぞの女に産ませたんちゃうか?」
「あー……あの子、成田さんのもろタイプっぽいもんな?」
トモキ、何言うてるん?
「なんかこう……細っこぅて色白で目が大きいて、チョット見はかなげな……?」
「はぁ?」
「あー言い方まちがえたわ。もろタイプの女が産んだ子や、やから似てんねや」
「ああ、やっぱそっちやんな、ビックリさすなや」
「前のイロ、あんなカンジやったやん?」
「せやな~、ホモはないやろ」
「わっかい時ヒモやってたし~俺~😉👍って言うてはったしな」
「ぽいよなぁ、めっちゃ貢がせてそう~」
「なあ?でもな、ホモに好かれたハナシやったら、前に聞いたで、
 ムショ入ってたときな、俺、寝込み襲われてんで~笑うやろ?😆って」
「笑えるんかい」
「ドコ触ってんねん!って腕捻り上げたってんけどな、
 ソイツもっとやってくれ、って縋り付いくんねん😳て」
「ひくわー」
「なんかドMやったみたいやわ~😳ってな」
「うっわ」
「蹴っても蹴っても興奮しよって参ったで😬
 あんまりしつこいから俺もヤッたってもエエかな?ってちょっと思たんやけど、
 やっぱ勃たへんねや。ボウズのおっさんはキツイで?なあ?🥺
 ま、俺もボウズやってんけどな~😂 お前らも気ぃつけや~😁て、
 ……お前聞いてなかったけ?この話?めちゃオモロかったで」
「聞いてへんなあ……てか〝ヤッてもエエってちょっと思った〟
 ってなんやねん!思ったんかい!」
「ははっ、な、あれは?
 木工で棚かなんか作ってて、ノコの使い方やら教えたる言うて、
 やたら腕とかケツ触ってくるジジイ」
「えぇ?知らん」
「飯食ってる時、ぽいっておかず、アジフライやったかな?
 皿に入れてきて、ねっとり見てくる隣のおっさんとか」
「ア ジ フ ラ イ 」
「なぁ、笑うてまうやろ」
「どんだけモテはんねん、あの人」
「あ、あとなあ、風呂入ってる時、やたらと視線感じるから、
 あ~背中見てるんやな~思って、
 ええやろ~😁って見せつけるように体洗っとったら、
 にいちゃん、エエもん持ってんなぁ……って、
 も少し下の〝前〟をガン見されたっちゅうのは?」
「知らんわ!聞きたかったわ!ずるいわ、お前だけ」
トモキはへへって笑った。なんや腹立ってきた。
「続きあんねんで?
 え?ソッチ?バックかてちょっとばかり自信あんねんけど😁って言いかけたけど、
 めっちゃ誤解されそうな発言やな🤔思うて、やめてん。
 言っとったら、どないなってたやろなあ🤔」
「何やねん、あの人!」
二人でゲラゲラ笑ってたら、カウンターの子がちらっと見てきた。
ガラわるーって思うてんねんやろな。
でも、俺らはなんかようわからんテンションになってしもて、
二日前のカラオケ天国のことでさらに盛り上がった。
「俺なあ、びっくりしてん。成田さんの後ろからあのボウズ入ってきて。
 中学生をフツー連れてくるか?!それもメガネの真面目そーな……マジなん?!って、
 怖いおっちゃん相手に歌のアドバイスさせるって、何なん?って、
 あのボウズも震えとったやん?最初は」
「おー、俺も思うたわ……ハキダメに……鴨?」
俺も大概アホやけど、トモキは上いってると思う。
「鶴やろが!」
「そうやったー?まあ、聴くの疲れたんかしらんけど、最後のほうかなり雑やったけどな」
「なー、あれびっくりしたわ……〝カスです〟やぞ?!」
「肝据わりすぎやろ……ほんまに成田さんの子なんちゃう?」
「でも〝お父さん〟言うてなかったやんな?
〝狂児さん〟言うてたやろ?〝成田さん〟でもなかったで?
 なんやろ?〝狂児さん〟呼び……名前呼び……」
トモキはこの話題には興味ないらしい。スマホをつつきだした。
「なあ、俺なあ……」
「ん?」
「あの子が〝狂児さん〟て言うたとき、ドキッてなってん…なんやろ?」
「んん?なんや?」
 ゲームはいったんやめにしたらしい、テーブルの上に置いた。
「〝狂児さんが正直に言え言うたんです!!〟」
「なんやお前、おぼえとるんかい?」
トモキは呆れたみたいに笑った。
「え?あ……うん」
あの子が高いきれいな声で泣き出しそうに言った時、
俺はドキッてなったんや。
何でかな?ようわからんわ。
「そんな気になるかー?あ?何時?」
潮がザーッと引くような気分。
「三時半」
「げっ、そろそろ行かな。お前これから何するん?」
「今日は楽やで。新装開店ピンクキャットの呼び込み」
「ええなあ、代わってほしいわ」
「夕方まで事務所におろうかな」
事務所の玄関ホールにちょっとした休憩スペースがある。
そこのすみっこで、時間つぶそ。
「おう、ほなら」
トモキは立ち上がった。
俺ももう行かな。


「聡実く~ん、こっちこっち」
成田さんに呼ばれて〝ボク〟が覚束ない足取りで奥の席へ歩いていく。
そして、成田さんの右隣に座っ……え?
あの子が座りよったんは、成田さんのヒザ。
……は?
両足は、塾講師さんの方へ揃えて体育座りになって、
小さな尻は、すっぽり成田さんの股間に収まってる。
「……怖いんですけど?」
〝ボク〟はカタカタ震えながら、怯えた顔で成田さんの顔を見上げた。
怖いのはわかるけど!震えるのもわかるけどぉ!
君、どさくさ紛れに成田さんの首にぶら下がっとるやないか?
何よりも、ヒザ乗りって?!
成田さんは成田さんで、両腕の中に閉じ込めるみたいに”ボク”の細い腰を抱いてるし?!
てゆーか、コレ、姫ダッコやんな?!えっ?なんで?
「まちごうてるで😨」とか言いながら持ち上げて、
隣にぺいっと置くんとちゃうの?フツー?
「僕のヒザが乗り心地ええからって、聡実くん、大胆やな😏」
「あ、まちがえてしもた」
自分がドコに座ったか今更気がついてドギマギしてる。
成田さんはそんな様子を見ながら、目を細めて満更でもない表情や。
……ほんまに……なんで?
「ごめんなさい」
「ぜんぜん、ええよ?☺️」
「ええの?」
間違えたんなら早う降りぃな。
「このまま皆の歌聴く?僕はどっちでもええけど😙」
「どうしよう……聴かなあかん?」
頬を赤くしてチラッと皆を伺った。
「そのために来てもろたしなあ。
 怖かったら、しがみついててええよ?」
「……このままおってもええ?」
「ええに決まってるやん。うれしいなあ、聡実くんから乗ってきてくれるやなんて🥰」
「言わんといて、狂児さん」
〝ボク〟は成田さんの口を手でおさえた。
「めっちゃかわいい。ぴょこんって乗ってきて😙」
その手を剥がしてニギニギしながら、めっちゃ脂下がってはる。
「やっぱ、子犬ちゃんやってんな~?聡実くんは🥰」
成田さんのこんな甘い声聞いたんはじめてや。
「狂児さん、いけずや……ちょっとまちがえただけやのに」
はー?間違いでヒザに座るかいな?!
でもマジやったんか、目にはうっすら涙溜めてる。
「いけず……」
「あ、ごめん、ごめん😅」
「それに、こないな人数って僕、聞いてません。
 超アウェーやないですか……怖い」
堪えてた涙がこぼれた。
「聡実くん、泣かんといて😅」
成田さんは〝ボク〟の頭を撫でくり回して、ご機嫌をとるみたいに何か囁いてる。
膝の上の〝ボク〟は耳まで真っ赤や。

強面のオッサンだらけの殺伐としたカラオケルームで、この二人は異質や。
エロい雰囲気を醸してて、二人だけの世界にどっぷり浸ってるみたい。
な?見てみい!親子なワケあるかい!
アカンやろ、コレ!中学生相手に!
見つかってしもたら、しょっぴかれるヤツや。
なんでみんなスルーしてるんや!
酎ハイ飲んで盛り上がっとる場合とちがうやろ!
四番さん何とかしてください!
俺みたいなペーペー、成田さんに意見とかできひんねんから!
誰か!誰かぁぁ!


「はッ!」

びーーーッくりしたーーー!!!
なッ、なッ、なんや?!今の夢は?!
成田さんがムショで男に迫られたって話聞いたからって、あんまりな夢なんちゃう?!
なんで、成田さんとあの子が……?
イチャイチャしてる夢なんか……俺は……見て……?
えっ?アレか?
ボウズ頭がボウズ(中坊)に変換されてしもたんか?ボウズつながりか?!
せやからこんな夢を?!
なんちゅうバグを起こしよんねん、俺の頭は、まったくもう。
ああ、それにしても生々しい……

唸りながらさっき見た夢を分析してたら、
あろうことか、ご本人がお仲間と上の階から下りて来はった。
「ミツオ~何やってんねん、遅刻しなや😏」
「はい!」
慌てて立ち上がった。
「よだれ出てんで?😁」
「あ?」
シャツの袖で慌てて拭いた。
「なんとかせえや、その間抜けヅラ😁」
お仲間の人達とケラケラ笑うてはる。
「はいぃッ!」
あかん、声裏返ってもうた。

「狂児、アレどないなった?」
「あぁ、やっとウタいよったわ」
何のシノギやろ?……俺とトモキもいつかは……
ぼーっと立ってたら、いつの間にかどえらいメンツが集まって煙草吸ってて、
俺は、抜き足差し足でこの場から離れることにした。仕事行かなアカンし。

「あとは小林の兄貴に任せてええみたいやから、ヒマできてん」
成田さんは仕事のカタがついて、楽しそうや。
「ほーん、ケーキ食いに行けへん?新しくできたトコ」
ヤクザがケーキて。
でもこの人と成田さんは甘いもの🍰好きらしい。

「これから、子犬ちゃん拾いにいくねん。それからカラオケ~😁🎤🎶」
「まだ習ってんのか?」
「そうやで、ドベなってもうたら、あ、ミツオ、」
「はいッ!」
びッくりしたー……
「車出してきてくれへん?」
成田さんはキーを差し出してきて、目が合うた。
ちょっと艶っぽい目やった。
……んん?!
「助手席、書類とか散らばってんねん。ついでに片付けといてー」
「はいッ!」
緊張しながらキーを受け取る。

成田さんいうたら、助手席には滅多と人乗せんて聞いたことある。
惚れた女しか隣には乗せへんとも……
あの〝ボク〟は乗せるんや……

乗せるんやな?!

やっぱ、さっきの夢、
夢やけど、夢やなかったんちゃう?!
きっと、そうなんちゃう?!







よりぬきお題さん。'20.10.29