或る予言



ドッオモ〜!こんばんは〜!
今日、さっぶいねえ!
わあ、かわいいねぇ、たまきちゃん言うん?ええ名前やねえ!
え?今日初めて店入ったって?新人さんなん?
俺、ラッキーやわぁ!ラッキーもここに極まれりやな!わはは!
あ、生中ね。
スキンヘッドやからってコワないよ?

—— 三十分後。
あ?歌?俺が歌うん好きって知ってんのぉ?
ちょっとまだええかな?後で歌わしてもらおかな?
前は……ゴス○ラーズとか歌ってたんやけど、
歌の先生が、ノリのええ曲のほうが栄えるってな、
そっから、無敵やねん。
歌?習ってへんよ?昔、ちょっとアドバイス受けただけ。
そそ、ウチの組長、絶対音感持ってるからなぁ、歌には厳しいんよ。
そうなんよ、風呂沸いたて音も飯炊けたて音も音階で聞こえるねんて。すごない?
狂児?狂児もこの店来たって?アイツ下戸やで?
あ……?
うん、狂児、嫁おらへんよ?ずーっと独り身。
ふふ、たまきちゃん狂児気になるん?
ええ、ええ、正直でええ!
せやね、狂児、嫁おらんけどな……
右腕に彫ってんで……名前。〝生涯ただ一人の女〟言うの?そんな刺青。
あれな、ああ見えて一途なんよ。
あ、こら、しもた!また狂児の株上げてしもたな!
知りたい?遠慮せんでええって!ええって!
二十五下やで?すごいやろ?せやから今……ハタチ?やな。
もうアツアツやねんて!
たまきちゃんより下なん?そうなん?たまきちゃん高校出たてぐらいか思ったわ!
黒い髪で色白で別嬪さんやで。細ぅてな……柳腰言うの?
今、東京の大学通ってるらしいてな、狂児めちゃ通ってんねん。
東京から帰ったらもうツヤッツヤしとるもんな。
さとみちゃんって子やけど、サイゼでバイトしてるらしいねん。
そんでな、狂児東京行くたびにドレッシング何本か買うて帰んねん。
それだけやったらええけどな、組の冷蔵庫に入れよんねん。
貯まりに貯まってもう何本もあんねん。
「ご自由にどうぞ〜持って帰って〜」言うんやけど、ドレッシングやで?サラダにかけるヤツやで?
あんま捌けへん。冷蔵庫の中圧迫してな、皆、イラッとしてんねん。
この前も小林のアニキに言われてたわ。
「お前のさとみLOVEのせいで俺のプリン入れられへんやんけ!なんとかせぇ!」って。
「せやかて、さとみの売り上げ伸ばしてあげたいですやん」って狂児シレッと返してたけどな、
「バイトやろが?店長でもないのに売り上げやら関係ないやろ!」ってキレられてたな。
たまきちゃん、要らん?持って来たろか?一本?
「たまきちゃん、ちょっと。ごめんねぇ、カス下さん」
あー……? ママに連れて行かれよった。
お説教やで、あれは……客の前で他の客のこと食い気味に聞くんはなぁ、あかんやろ。
おっ、スミ子ちゃんや!ひっさしぶりやねえ!元気しとった?
ちょ、ごめん、来てくれた早々悪いけど、便所行ってくるさかい。

はー……なーんか、白けたな。
他行こかな?ミツオとトモキ呼んだろかな?今日暇や言うとったよな?
んー、どうしようかな?
もう帰ろかな?うーん…………よし、呼んだろ。
「5分で来い。スナック夕子」

ジョーロジョロ……
しっかし、どの女も狂児狂児って、ほんまにもう。
ツラか?ツラがすべてか?背ェか?
髪の毛ェも?そんなん身に沁みてわかってるわ。ほっとけや。
俺かて、黒々とした髪カッチカチに固めてかっこええわぁ言われたいわ。
そんで、たまに固めずにフワッとかサラッとかさして、
今日はなんか違う思うたら髪が違うんやねぇってうっとり言われてみたいわ。
なんや面白ないから、聡実先生のこと、めちゃ美人に言うたった。
ま、可愛いっちゃ可愛いけど、そこまでやないやろ。男やし。
それにもうハタチやろ。狂児にとっては可愛いか知らんけど、
コッチ帰って来てたの見かけた奴はあのまんま背ぇ高うなっただけ言っとったけど、
俺は「紅」からこっち会うてへんもんな。意外とごっつい男になってるかも知れへん。
どっちにしろ、もうな、狂児にはごっつい美人のイロが東京におるってな、広まったらええねや。

狂児の腕の刺青も、あれ、歌ヘタ王になったから、組長に彫られたんや。
〝生涯ただ一人の女〟みたいなろまんちっくなもんやあらへん。
「聡実くんに歌習っとったって聞いたで?なっさけないのお!
 よっしゃ、聡実くんの顔彫ったろ!「紅」歌てる時の顔にしたるさかい」ってなノリで彫られてんで。
狂児の「顔は、顔だけは、堪忍してくださいッ!!」って絶叫がちょっと耳に心地良かってんや。
まあ、狂児の名誉の為に言うとくけど、絶叫まではいかんかったらしいけどな、
ちょっとした泣きが入ったのは、ほんまらしいからな。

「ママ、帰るわ〜。スミ子ちゃん、ゴメン。またね!また来るさかい!」

なんやねん、ミツトモ遅いやんけ。もう来てる頃やろ思うたのに。
もうええわ。一人で次行こ。
それにしても、さっぶいわ。

狂児なあ、どないする気なんかな?
当分東京通うみたいやけど……
せや、思い出したわ。
あの子が「紅」歌い終わって、狂児が部屋に入ってきて、
一気に和やかムードになった時、
若頭は「あの子〜、ええ玉やな」言うたけど、俺、頭の中「?」になって、
「たま?どっちのですの?命?ぶら下がってるほう?」聞いてしもた。
「あほ、上玉の玉や」
「はぁ、男の子やから、ソッチの玉か思いましたわ。上玉ねぇ……」
「狂児はあの子離したらあかんな」
「それは、どういう……?」
「狂児のこれからを担うようになる」
「まだ中学生ですけど?ウチに来るんでっか?そんなハナシありました?」
「来ぇへん、来ぇへん。これから高校大学やろ。まあ、見ててみ、ながーい目でな」
「ながーい?」
「せや、ながーーーい目で」
「……はあ」
「ようわからんか?」
「はい」
「せやなあ……やったら、狂児の顔見てみ、可愛いてしゃーないって顔隠し切れてないで?」
「すんまへん、ようわかりませんわ」俺にはいつもの狂児に見えたから。
「聡実くんもやな。狂児の懐に飛び込んでしもたな」
「ふところ……」
「体操服着てカラ天来たときあったやろ?」
「〝カスです〟言われた時や」
「ははは、あの時は可愛い声しとったのに、
 今日、声も……何もかも、心の有りっ丈全部削っとるで、あの子。狂児の為にや」
「狂児の為に……」

せやせや、俺はあの時、なんやどえらい話やな思うたんやった。
あれからもう何年や?六年か?
狂児と聡実くんな、まさか本当にくっつく思わへんかったなぁ。
いっつも思うけど、先見の明どころやあらへん。若頭はやっぱりすごいわ。