腹這いになって布団に入り、枕元のスタンドの灯りを点け、
図書室で借りた本を読んでいる。
読み進めたいと思うのだが、いつの間にか字面を眺めているだけになってしまう。

倉庫の裏であんなキスをされた所為で。









11:45pm[side猪里]








この頃虎鉄は、二人っきりになる機会があればそういうことをしようとする。
この本を借りた時も、書棚と書棚の間でさっと掠めるように口付けられた。
部室で後ろから呼ばれて振り向きざまにされたこともある。
間髪入れず思いっきりエルボーを喰らわせてやったら、
息が出来なくなったみたいでちょっと慌てたけど。
公園でいきなりファーストキスを奪われ、
「いきなりそんなことを、それも外ですんな」と怒ったら、
「わかりましTa」なんてしおらしく謝ってたのに。
喉元過ぎると熱さを忘れてしまうのか……

この部屋ではもっと大胆で、
一昨日は口付けられながら押し倒されてしまった。

「まだダメKa?」
甘い囁き声は確かに耳に届きはしたものの、
その意味を頭で理解するのに時間がかかって、
ぼーっとしていると、痺れを切らしたらしい虎鉄は言った。
「オレもう限界みたいなんだけDo」
慌てて起きあがり、何でもないような顔を作った。
胸の鼓動を気取られるんじゃないかと気が気じゃなかったけど。

虎鉄は起きあがって俺の顔を見て察したらしく、
「猪里が嫌なら仕方ないKa……」なんて溜息を付いてたっけ。

---堪え性の無いヤツたい。

梅星は「虎鉄は手が早いから気を付けろ」と言った。
付き合いだしてまだやっと1ヶ月なのに、もうこんなことで悩まされている。

---梅星さんは、やっぱ虎鉄ばよう知っとるっちゃね。

今日腹に押しつけられてほんとに余裕が無いのだとわかった。

---もっとずっと後やったらいかんちゃろうか?

虎鉄は軟派な上にモテるし、この手のことに関して辛抱強く待てる方では無さそうだ。

---其の内、煮え切らん俺に愛想ば尽かすんやなかかいな?


「…………」


---なして……

   なして俺はこげんこつで女ごたぁ悩まないかんとや?
   ほんなごと、女ごたるばい。



「野球しに来たんやけんね」




---もー、寝よ。阿呆らしーなってきたばい。

















('03.10.17初出)