席替えしたら、窓際の席になった。
ラッキーなことに、猪里のクラスが体育の授業受けてるのが、ここからよく見える。
オレらは昨日だったけど、走り幅跳びの記録をとってる。









It's so easy to fall in love








動詞、be動詞、形容詞、名詞……etc、etc……
英語の授業、特に文法なんてクソつまんね。
大体いつも寝てるんだけど、今日の授業は眠くならない。
グラウンドの猪里が見れるし、あと、
手元にあるこの英和辞書が、猪里のだから。
さっきの休憩の時、A組まで行って借りて来たんだ。


   「置き勉しとるっちゃろ?なして無いとや?」
   「誰かに貸したんだYo。返って来ねーNo」
   「誰に?」
   「わかんNe。忘れTa」
   「なんそれ、そげんいい加減かヤツには貸しとうないばってん」
   「そんなコト言わずに貸してYo」
   「しょんなかね……俺んクラスも4時間目なんやけ、はよ返しぃよ?」


猪里は、渋々、だけど笑顔で手渡してくれた。
恋愛偏差値はトップクラスと自負してるこのオレが、あの笑顔にどぎまぎしたのは、事実。
可愛いなあ……なんて見蕩れたのも事実なら、
この前猪里ん家に初めて行ったとき、
ヤベェ好きかもしんないってドキドキしたのも、この五月晴れの空のごとく、一点の曇りなく事実だ。

この辞書だって、好きなヤツの持ち物ってだけで、オレってば少し興奮気味だったりする。
そして、「 Love 」って単語を引いてみたり。
なんかさ……アリエネーってカンジ?

……『 愛、愛情 』……

「 Love 」の意味なんて、いちいち引かなくても分かってるけどよ。

……『 好き、好意……恋愛、恋……情事 』……

恋という字を辞書で引いたぞ~♪なんて歌が頭を過るほど、
オレは猪里にいかれちゃってるらしい。

でも……

告ったりしたら、やっぱ気まずくなんのかな?
気持ち悪がられて、避けられたりしたら、すげえHeartbreakだよな。

……ひょっとして、野球部にもいられなくなったりして?

それは、やだ。

今の3年は嫌なヤツばっかだけど、野球は続けるし、
猪里も欲しい。
……となると、どうすりゃいいのか、オレ、よくわかんない。

グラウンドへ目を移すと、ちょうど猪里の番だった。
オレの席からは対角線上に走って来るように見える、オイシイ場面。

猪里は、体育教師に名前を呼ばれて「はい!」って元気よく返事した。
まだ背が伸びると踏んだんだろう、ちょっと大きめな体操服が可愛い。
真っ直ぐ走って、踏み切り、
距離を伸ばすように、空中で体を振り絞るように泳がせ、着地した。
へえ、意外と跳ぶじゃん。

あ、

今一瞬、目が合った気がする。
見てんのバレてた……?
このバンダナ目立つもんな。
つーか、最近よく目が合う気がするんだけど、気のせいなのか?

気のせいじゃなきゃ、うれしいんだけど。
でさ、それも、友達としてじゃなく、
気になるヤツ、つーか、もっと近づきたい相手としてオレを見てくれてたら嬉しいんだけど。

再び、辞書を眺める。

……『 性欲、性交 』……Oh!

うん、オレ、猪里とそういうコトもしたいと思ってる。
Love に男とか女とか、関係ないんじゃない?

……『 fall in love with ~』で、~ と恋に落ちる……か。


猪里、

オレは、とっくに落ちてるよ。
お前となら、ニンゲンの根底にある温かいものってやつを一緒に育めていける気がするんだ。
オレもお前も男だってのに、こんな風に考えるオレは、すげー能天気なんだろう。

でも、そんな気がするんだ、

きっと、大丈夫だと思うんだ。


猪里、

オレはとっくに落ちてるよ。

後は、お前次第だよ。

さっきみたいに、しっかり踏み切って、跳んで来てよ。


恋を、しようよ。
















2006.4.12 初出