久々の休みだっていうのに、何もすることが無い。

逢いたい奴はいる。
けど、逢おうって言えない。
自分の所為なんだけど。

姉のお古のPCで遊ぶのも飽きてきた。
気付けば携帯を開いていた。
中学の時のダチに久しぶりに連絡取ってみよっかな?









Room








[猪里猛臣]
今何してるんだろ?
殆ど無意識のうちに指が動いてた。

「ウチ来ないか?」送信。

オレも馬鹿だよな。アイツから返ってきたことなんて殆どないじゃん。
どのみちウチに来るワケ無い。
それでも心の隅で少し期待してしまう自分がいた。
其奴に向かって舌打ちした。

ベッドに寝転んでぼーっとしてたら、携帯が鳴った。
逸る気持ちで開くと猪里からのメールだ。

「行く」
たった一言。
でもLoveletter貰ったみたいに嬉しい。




体育祭からこっちなんかぎくしゃくしてた。

俺に遠慮してる……そう感じた。
どう接していいのか分からなくて、部活の時もあまり話もしなくなっていたし、
いつも一緒だった帰り道は一人の時もあった。
自意識過剰な自分に嫌気が差してくる。

メール着信「ウチ来ないか?」

「…………」

「行く」返信。

2時に駅に迎えに行くからって電話貰った。

駅に着いて少し待った。
虎鉄は息を切らしてやって来た。

「ごめN。部屋片づけるのに手間取っTe」
「別によかのに」
「座るところも無いんじゃ寛げねーJaん」
「そげに散らかしとーとね?」
「男なんてだいたいそんなモンだRo?」
「世の中ん男の皆お前と同じ思たら大間違いばい」
「掃除機もかけたんだZe?褒めてくれYo」
「はいはい、虎鉄はえらかー」
「何だYo、その投げやりな言い方Wa!」

虎鉄の家は静かな住宅街の一角にあった。
カーポートの脇を歩きながら思い出した。
この車には乗ったことがある。まだ入学する前だ。

「お姉さん元気とね?」
「相変わらずだZe。運転のほうも変わんねーNa」

玄関には女物の靴が2足きちんと揃えてあった。
「オフクロの友達が来てんDa」
「そうね」
親の友人もいるのに何か起こるわけ無いか……勘ぐってしまう自分にまた嫌気が差した。
「お邪魔します」
居間に通じるらしいドアから笑い声が聞こえる。
虎鉄の後ろから階段を上がろうとした時そのドアが開いた。
「猪里くん?」
「あ、お邪魔します」
「いつも美味しいお野菜どうもありがとう」
「いえ、たくさん送って来よるんで……」
「大河がしょっちゅうお邪魔してるんでしょ?」
「そんなでも無かとです」
虎鉄の母はふっと微笑んだ。
「散らかった部屋で悪いけど、ゆっくりしてってね」

部屋は急場凌ぎに片づけられたのがよくわかるような部屋だった。
隅には雑誌が積み上げられ、机の上は雑多なモノで溢れて、
教科書や文具などは見あたらなかった。
郷里の弟の机上とよく似ている……少し可笑しくなって、顔が緩んだ。

「何?キタNeー机だと思ってんだRo?」
「まあね、どうやって課題やらするんかいなって」
「んなもんテキトーだZe。ま、座っTe?」
「うん」




猪里は別に意識してないみたいに見える。
親がいるってことで安心してるみたいだ。
でも、この状況は相当ヤバイ。
猪里が凭れてるのはオレのベッドだし。
私服を見るのは初めてじゃないけど、
オフホワイトのパーカーが似合ってて、可愛い。



「大河ー」
下から呼ぶ声がして虎鉄は降りていった。
CDのタイトルを眺めたり、雑誌を捲ったりしてたけど、
部屋は南向きで午後の日が差し込んで11月なのに暖かく、眠くなってきた。



クッキーと紅茶という、
あまり高校生男子に似つかわしくないお八つをトレイに載せて部屋に戻ると、
猪里はベッドに頭を凭せ掛けて眠ってた。
茶色の髪に日の光が差して、長い睫が産毛が光る柔らかそうな頬に陰を落としていた。
目を反らすことができなくて、横に座って眺めた。
倉庫裏でこの唇にキスした……ドキドキしながらそっと指でなぞった。
今日は我慢の限界を試される日なのかもしれないと思った。




車のエンジンの音で目が覚めた。
「俺、寝とった……?」
「カワイイ寝顔だったZe」
溜息を付いて睨んでやった。
「そんなコワイ顔すんなっTe。コレお手製なんだってYo。食う?」
見ると小花模様の皿にクッキーと紅茶。
「紅茶冷めちっまったけDo」
「べつに気にせんよ」
「オバさん達に捕まっちまってYo、
 『大河クン男前になったわネェ』なんて言われてたんだZe?
 『オバさんも相変わらずお綺麗De』って言ったらよ、
 『キャー☆言うわネ、この子!』だってYo。参ったZe」
ぼやく虎鉄の横顔に、そうっちゃね、男前たい、
なんて思うけど、口が裂けても言えない。
「これ旨かとねー」
クッキーはあっという間に無くなってしまった。



「どっか遊びに行くKa?」
「何処い行くと?」
「うーN……カラオケは?」
「えー?」
「嫌Ka?じゃ、ゲーセン?」
「そうっちゃねぇ……」
「猪里どっか行きたいトコNeーの?」
「別に無かとよ」
「Nー、じゃ、外出て決めよーZe」
「来たばっかりやん。そげに急がんでよかろーもん」

「……オレ自信が無いんDa」

「へ?」

「部屋で二人きりでいると、また何かヤラかしちまいそうなんDa」

虎鉄は俯いて目を合わせようとしない。

「やったら、俺……帰ったほうがよかと?」

虎鉄はハッとしたように顔を上げ、一瞬目が合ったと思ったら抱き締められた。

「帰るなんて言うなYo」

そのまま押し倒された。敷かれたラグの毛足が手の甲を擽った。

「虎鉄!」

「好きなんDa」

真横にある顔は床に突っ伏していて、その表情を見ることは出来ない。
でもきっと余裕の無い顔をしているんだと思う。
虎鉄の鼓動が服越しに伝わってくるから。

「猪里は赤頭巾チャンなんDa」
「はあ?」
「ここは飢えた狼の館だかRa、カワイイ猪里は食べられちまうんDa」

「くっ……」
「笑うなYo」
「お前……俺男ばい?何ね?赤頭巾チャンて」
「だっTe!来てくれたかRa、オレ期待しちまって」

虎鉄はマジみたいで、でも可笑しくて堪えきれなかった。
声を抑えようとして腹筋が引き攣って仕方なかった。

「オレおかしくなりSo」
「俺もおかしゅーてたまらんちゃんね」
「いつまでもウケてんじゃねーYo」

虎鉄は勢いよく体を起こした。真上にある顔は拗ねた子供みたいに見えた。

「キスしてEー?」
「お前止まらんごとなるけん……」
「止めるつもり無いって言ったRa?」
「親が下におるのに?」
「いないZe。連れだって出掛けたかRa。晩飯もテキトーに食べろだってSa」

「…………」

さっきの車の音……母親の外出を虎鉄が計算に入れていたとは思いたくなかった。

顔が近づいてきて目を閉じてしまった。
これでは「狼サン食べて」と言っているようなものだ。
自分でも何がしたいのか、何をしたくないと思っているのかよく判らなくなった。



唇に触れるだけのキスを繰り返す。
目を閉じてキスを受け入れる猪里に愛しさが込み上げる。

今のオレの理性は……何て言ったっけ、アレだ。
ジェンガ。
高く積み上げられ、既に隙間だらけ。
もう一片たりとも抜くことなど、できはしない。

「……ん」

声とも言えない甘い鼻音が耳を擽り、
小さな木片はするりと抜けた。
震える指で押し戻そうとするのに、ゆらりと傾いてくる。

唇を離すと視線が絡まった。
榛色の瞳は濡れて、余裕無さげな狼を映していた。
寄せ集めの理性はガラガラと崩れ落ちた。



体を離して猪里を抱え上げた。
「ちょっ、虎鉄?」
ベッドに降ろして大急ぎでカーテンを引くと、
明るかった部屋の色調が暗くなった。

ベッドから降りようとする猪里を押し戻し座らせ、再び口付ける。
舌で「開けて」と合図するように歯列を突く。
躊躇いがちに開かれたそこに舌を滑り込ませた。
大人しい儘の舌を絡め取る。キスをより深いものへと、導くように。
歯列をなぞり、上顎を舐め、
気が付けば掻き回すように舌を出し入れしていた。
オレハ下モコンナ風ニシタイト思ッテル……
舌の動きが物を語り、カッと体が熱くなる。
パーカーの裾から手を入れると、びくっと震えた。



こんなキスは初めてで、戸惑っているうち手が這い上がってきた。
払おうとしたけれど逆に掴まれてしまった。
そのまま倒れ込んできた。
片方の手で押し退けようとしても体重を掛けられ動かせない。
その手も掴まれベッドに縫いつけられた。
虎鉄は服を噛んで器用にたくし上げ、胸に舌を這わせてきた。
「あっ……」
思わず声が出て、慌てて口を引き結んだ。
胸の突起を舌で突かれ、快感が走り抜ける。
腰が跳ねて、虎鉄の胸を押し上げ、ベッドがぎしっと音を立てた。



未だ摘み取るには早い小さな果実みたいな胸の突起を舌で転がし、
甘噛みして味わうと、猪里の抵抗は弱まっていった。
両腕を上に纏めて邪魔なパーカーをアンダーシャツごと捲って脱がせた。
頭を抜かせるとき猪里は大きな目を瞬かせて、そんな表情にも煽られる。
猪里の腰に跨ったまま自分もシャツを脱ぎ捨てた。
首筋に口付けると、素肌が触れ合って、
温かく滑らかでうっとりする程気持ちいい。

---真夏の部活。
部室で着替えながらちらと盗み見た白い肌……
友人にこんな感情を持つ事の罪悪感に苛まされた。
それが腕の中にある現実に興奮を抑えられない。
自分自身がほぼMAX状態で、細身のボトムがキツくてベルトを緩めてジッパーを降ろした。

胸を嬲られ吐息を付いている色っぽい表情や、
肌理の細やかな肌に気を呑まれ、
自分と同じモノが付いてるんだろうか……?
自分自身がヤバイくらいなのにバカなことを考えてみたり。
胸を撫でていた手を下に降ろし、ジーンズの上からつーっと上に撫で上げた。
「っ……」
声を出すまいと堪えているのが、噛み締めた唇から見て取れた。
前のボタンを外しジッパーを下げ、手を差し入れる。
下着越しに半勃ちの猪里自身に触れると、また腰が小さく跳ねた。
掌で包み込むように刺激を与えると硬く形を変えていった。
「こて、つ……」
「N?」
「やめ……ッ」
髪を揺らし頭を振り、潤んだ目で訴えてきた。
こんな反応されたら止められるワケがない。
握り込み扱くと先走りで下着が濡れてきて、同じだNaなんて思う。
「こんなになってるのNi?」
「や、あぁっ……」
高く掠れたような可愛い声。
針が振り切れる程ボルテージが上がる。
下着の中に手を入れ直に触ると熱くびくびくしてるのが伝わってくる。
「ココとかイイだRo?」
勝手知ったる男の体。
括れを指の腹で捏ねて回して。
「ぁ……はッ……」
裏筋に沿ってなぞり上げてみたり。
「んん……ッ……」
微かだけれど艶めいた声を聞かせてくれるから、
もっと追い上げてみたくなる。
もっと欲しくなってしまう。

ジーンズを下着ごと一気に膝まで引き降ろすと、
猪里は咄嗟に毛布を掴み、前を隠そうとした。
それを阻止して残り半分を引き抜き、靴下も剥いで放った。



体を捻り視線から逃れようとしたけれど叶わなかった。
足を拡げられ再び掴まれ、体が竦んで思わず目を閉じた。
温かく濡れた感触に、恐る恐る視線を落とした……

「う、そ……ッ……」
「嘘じゃないZe」

唇が触れるか触れないかの微妙な辺りで喋った。
温かな息が掛かり、それにさえ感じてしまう。
零れ出る先走りを掬うように舐め上げられ、腿が震える。
下腹にある頭を押し退けようとするけれど、下半身どころか腕にも力が入らない。
バンダナを掴んで取るのがやっとだった。
口に運んで噛み千切る程に噛み締めた。
そうでもしなければおかしな声が引っ切りなしに出てしまいそうで。
けれど、バンダナからはコロン混じりの虎鉄の髪の移り香が香って、鼻を擽り、
それは肺を満たし、体中を巡り、下腹の熱い疼きに拍車を掛けた。

「ッ……ぅ……」
「辛そうだZe?声出せYo」

伸びてきた手によって拠り所は取り上げられ、放られた。
唇で包み込まれ、舌が纏い付き、容赦なく扱かれる。

「あぁあ……ッ……」
女の子みたいな声が出てしまう……

「い、かん……」
「イク?」
「はな、して……ッ……!」
「N?」
「出る……ぅ、」
溢れ出てしまいそうで、剥がしたいのに。
虎鉄のさらさらした髪の感触が指と掌から腕を伝わり、なけなしの力を奪っていく。

「やぁっ……ああっ……あーーっ……」



猪里の体が仰け反り、喉を突かれ苦しかった。
注ぎ込まれた猪里の精を少し咽せはしたけど飲み干した。

大きく上下している温かな腹で口を拭い、
骨盤から脇腹、胸、と唇でなぞりながら上がる。

猪里の手が縺れさせた髪を掻き上げ、上気した頬に口付けた。

「……飲、んだ、ん?」
「猪里のだかRa」
「ッ……あほぅ……!」

猪里の雄の証を目の当たりにしたら萎えるかもと思ったりしてた。
それは杞憂だったみたいだ。

額に薄らと汗を掻き、半開きの口から漏れる息。潤んだ瞳。
平らな胸で薄桃に色づく突起、
口の中で弾けた猪里自身。

全部スキ。

全部愛シイ。

全部誰ニモ渡サナイ。

唇にキスして、のし掛かったままベッドの下を探った。
小さなボトルはすぐ見つかった。
素早く下を脱ぎ捨てた。



あのボトルは……?

目が合うと虎鉄は薄く微笑んで言った。
「猪里が痛くないようNi」
虎鉄は手に液を垂らして指に塗りつけた。
膝を撫でられ、閉じた足をまた拡げられる。
ゆっくりなぞられ妙な感覚が這い上がってくる。
「虎鉄……!」
指が入ってきた。
「やっ、あ……抜きぃ……ッ」
「ちょっと我慢しTe?」
逃れようと足がベッドを蹴るから、
自然と体が上にずり上がってしまうけれど、
抑え込まれ、液を塗り込めるように指を抜き差しされ、探られる。
羞恥と、気持ち悪いのか良いのかわからない感覚に弄ばれ、思う。
いっそおかしくなってしまえたら楽なのに。



三本入れた指を引き抜き、再び液を手に垂らし、今度は自分に塗り付ける。
そのぬめった感触にさえ感じて、
イッてしまうんじゃないかと焦るぐらい、
熱く硬く張り詰めて、猪里を求めてる。

「虎鉄……」

両足を抱え上げると息を飲み、怯えたような顔をした。
形の良い耳に口付けるとぴくっと震えた。
手を添え挑むけれど、挿し入れられない。

「猪里が欲しい……欲しいんDa」
余裕の無い声で囁く。
僅かに頷いたような気がした。
でもそれは自分に都合の良い解釈ってやつなんだろう。

体の熱に衝き押されるように、再び突き入れる。

「ああッ……!」
「力抜いTe」

キツくて、でも、猪里はもっとずっと苦しそうで、
白い首に青く血管を浮き上がらせ、喘ぎ、
Give upとばかりに下膊を二度ベッドに叩きつけた。
プロレス技を掛けてるんじゃないんだぜ?
シーツを握りしめている猪里の手を取り、
両肩に掴まらせると、しがみついて来た。
深く口付け少しずつ腰を進め、ようやく根元まで収まるも、ちょっと躊躇う。
ぎゅっと目を閉じた、その目頭に溜まった涙を吸い上げ、
僅かに動く。
「……ッ」
痛そう。だけど、コッチはもう限界。
スローだった動きが速くなっていくのを止められない。

好きで堪らなくて、体を繋げられたなら、
壊れ物を扱うように優しくしたい。
そう思ってた筈だった。
なのに猛った自身は解放を求めて猪里の中を突くように攻めている。
「猪里」
囁きかけて、
「愛してRu」
譫言のように繰り返しながら。

膝をずらし深く打ち入れる。
「はぁッ……あ、あ……ッ……」
表情が艶っぽく変わったのに目を見張る。
ココがイイんだな……頭と自身に刷り込ませ、狙いを定めて律動すれば、
声を漏らして、突き上げる度指先を食い込ませてくる。
勃ち上がった猪里自身を掴んで扱く。
「あッ……んッ」
途端にきつく締められ、苦しくなる。
「ッ……息吐いTe」
「ぁ……っ……はッ」
腿を打つ乾いた音と、繋がったトコロから漏れる濡れた音、
猪里自身を扱く水音にも乱され、
突き上げ、掻き回せば、もうイッちまうと下腹が悲鳴を上げる。

「あっ、あ、こて、つッ……!」
締め付けられ、右手と腹が熱く濡れ、ふっと腰が浮く感覚。

「猪里……!」

何度脈打っただろう……全てを猪里の中へ放ち、崩れ落ちた。





猪里は上掛けを纏い横になっている。
挙げた片腕は顔を隠すように曲げられ、その表情を見ることは出来ない。
白い二の腕を晒していて、再び触れたくなる衝動をぐっと抑えた。

この沈黙は既に痛い程だけれど、猪里が口を開けば……

---「別れる」って言われるかも知れない。

ミネラルウォーターをコップに注いで持ってきたけど、怖くて声も掛けられない。



虎鉄は酷く落ち込んでるみたいだ。
きっと俺が無茶苦茶怒ってると思ってるんだろう。

でも、俺なら突っ撥ねることは出来た。
色々されてどうしようもなく体が弛んでしまったけど、
そうされる前に、拳の一発もガツンと喰らわせて帰ることだって出来た筈。

---そげんせんやったんは……

   ……虎鉄……?

   わからんとね?

腕を下ろして虎鉄を見遣ると、案の定顔色が悪い。

---いい加減気付きぃ。

   ……ばぁーか。

目の端に入った例のボトルを掴んで、力を込めて投げつけた。

「おわっ、危Neー!」
十二支野球部のファーストレギュラーを狙う虎鉄である。
取り落とす筈もなく、キャッチした。

「そげなもん、買いよって!」
「つい……出来心De。」
「それ、俺がシャンプー買うた時買うたっちゃろ?」
「……そうでSu」

ドラッグストアのレジで釣りを受け取っている時、
虎鉄はこの妖しげなボトルを持ってきて支払いを済ませた。
「なん、それ?」
俺が聞くと、悪びれた様子もなくコイツは答えた。
「N?そのうちわかるっTe」
店のオヤジの不審者を見るような目……

「もう、あの店行かれんばい。安かったとにどうしてくれるね?」
「あそこのオヤジ鈍そうじゃん、覚えてNeぇって」
「きさん……!」
体を起こそうとして腰に痛みが走った。
「あいたっ……」
「痛いだRo?寝とけYo」
「誰のせいね?」
正直脂汗が滲む思いだ。
真っ裸でベッドを出るのは憚られるのに、服はあちこちに散乱したままだった。
仕方なく、くしゃくしゃになったベッドのシーツを剥いで体に纏って立った。
「猪里お姫様みたいDa」
「だれが姫ね!」
虎鉄の足を思いっきり踏みつけた時、体から温かな液体が流れ出た。
「ぅ……」
「服着るのKa?着せてやるYo」
「……何か出てきよった」
「Ahー、中出ししちまったかRa」

キッと睨み付けると、虎鉄は慌てたように言った。
「下の便所にウォシュレットあるから……あ、それより風呂沸かそっKa?」
「風呂はいらん」
「遠慮しなくていいZe?」
「いいけん……ほんなごと、誰もおらっしゃらん?」
「いねぇYo」

付いて行くと言う虎鉄を剥がし、
トイレに下り、部屋に戻って服を着た。
靴下を履きながらベッドの端に腰掛けると、虎鉄は透かさず横に座った。

「今度からゴム付けるかRa」
「あたりまえったい」

墓穴を掘った。

「猪里ぃ、じゃ、次はいつにすRu?」
虎鉄は両腕を俺に廻し、ひしと腰を抱いてきた。
ついさっきの世界の終わりが来たような顔付きはどこへやら、
目がキラキラ輝いていて腹が立った。

「虎鉄……」
「N?」
「赤頭巾チャンを食べた狼はな、腹をかっ捌かるぅとよ。そんで赤頭巾チャンは助かるんばい」
「え゛?」
「空けた腹に大きな石ば何個も詰めらるぅと。それから縫い合わさるぅて、井戸に落とさるぅとよ」
「猪里……」
「それが哀れな狼の末路ったい」

「ごめN……猪里。無理矢理ヤッちゃってほんと悪かっTa」

「こん阿呆!ゴメンで済ますつもりね?」

「何すれば許してくれRu?オレなんでもするかRa」

「…………」

「許して欲しいなんて、虫が良すぎるんだよNa。
 ……わかってRu」

俺の左腰辺りで組み合わされていた虎鉄の両手が解けた。
力無く滑り落ちていきそうなその腕に自分の手を重ねた。
何故そんなことをしたのか、自分でもよくわからないけど。

「猪里?」

顔を覗き込んでくるけど、目は合わせてやらない。

「許してくれるのKa?」

返事の替わりに溜息を付いた。

虎鉄はやはり判ってはいない。
こうなってしまったことには、怒ってなどいないのに。
俺の意志はお構いなしに着々と準備を進めていたこと。
それに釈然としない心持ちを抱いているだけだ。

虎鉄は俺の肩に顎を載せ、耳元で言った。

「オレ猪里のことマジ好き……わかってRu?」

「はいはい、わかっとう」

何故かそんな風に返事してしまった。
きっと、虎鉄の腕の中に閉じ込められ、体は痛むのに温かくて気持ちいい所為。

八重歯を覗かせた笑顔に絆されて、蟠りもなんだか失せていったみたいで。

『阿呆は自分の方っちゃろ』
心の中で呟いた。



















2003.12.10初出