羽田行きに搭乗して隣り合ったシートに腰掛けた。
猪里は窓側で、オレは通路側だ。
ベルトサインが点り、離陸の時間になった。







東へ







庭で猪里家の人達が見送ってくれた。
「野球、頑張れよ」
「うん、兄ちゃんも試験頑張って」
「春休みは帰って来ると?」
マサ兄に張り付いているトシは珍しく神妙な顔付きで聞いた。
「多分部活のあるけん……帰れたら帰るばい」
「風邪引かんごと、気ぃつけんしゃい」
お祖母さんが優しく気遣う声に、
「オレが付いてるかRa、大丈夫」なんて呟いた。

猪里とオレを誰が車で空港まで送って行くかで、お父さんとお祖父さんがちょっと揉めた。
「俺が送って行くけん」
「お前は行かんでよか。わしが送っちゃるけん」
「虎鉄くんに旨か明太子ばお土産に持たせちゃろう」
「そんなら、わしが買うちゃるけん」
普段はとても仲が良いらしいけど、些細なことで揉めたりするみたいだ。
彼らの息子であり孫である猪里は愛されているんだ。
当たり前のことなんだけど、そう感じた。
結局、お母さんが送ってくれた。
「二人で行けばよかとでしょうが」とお母さんに叱られても、
まだ「俺が」「わしが」とやり合っていた所為だ。
冷戦は休止にしたらしく、搭乗間際に二人して現れたのには笑ったけど、
それぞれ別のメーカーの明太子をお土産に持たせてくれて、嬉しかった。


飛行機は滑走路を飛び立った。
見る見る間に福岡の街が下へ下へと小さくなっていった。

あんなに賑やかで温かな家を離れ、一人で暮らす部屋に帰る猪里。
寂しくないわけが無い。
横顔がそう語ってるんだ。

窓の外を眺めている猪里の手を取り、握った。
怒られるかなと思ったけど、
ちょっと驚いたような視線を投げかけて来ただけだった。

「寂しいのKa?」

「入学した頃はな……やっぱ寂しかったっちゃん。
 三年の先輩はあげな調子やったやん?
 地元の高校行けばよかとやったっち後悔もしたと。正直帰りたかったとばい」

「だよNa」

「今は……お前がおってくれるけん、さみしゅーなか」

猪里はふわりと微笑んだ。
オレの大好きな笑顔。

柄にもなく頬が熱くなってしまう。

「虎鉄、なに赤うなっとると?おかしかぁ」

からかわれても、言い返さない。

オレはこの笑顔の為に生きて行く。
そう誓って、それを心に留め置くのに忙しかったから。

猪里にはこの決意の程は明かさないでおく。
お前は「大袈裟なヤツばい」って笑うに決まってる。



そうだろう?

猪里?















(’04.1.2 初出)