ある日の虎鉄家。

虎鉄の母は押入に頭を突っ込み、大小様々の箱を引っ張り出していた。

「冷蔵庫の桃食ってEー?」
襖を開けて、虎鉄は聞いた。
「どーぞ。はしりだけど、わりと美味しかったわよ」
「何やってんDa?」
「バザーに出すモノ探してるのよ……あら?コレこんなところにあったのね」
小さな衣装箱から小さな服を引っ張り出した。
「幼稚園の制服よ……帽子もあるわー……小さいわねぇ」
「なんでそんなモン取っとくんだYo」
「お古だけど、誰か要る人がいれば上げようと思ってたのよ……こんなの着てる時は可愛かったのにねえ」
「可愛く育たなくて悪かったNa」
「ママーって纏わりついて」
「うっせぇYo」
捨て台詞を吐いて部屋を出ようとして、「五等」と熨斗の張られた薄い紙箱を蹴飛ばしてしまった。
ひっくり返った箱から中身が飛び出した。

---……コレ、Eーかも。

「コレ、いらねーNo?」
「あら、忘年会のビンゴで当たった……」
「貰ってEー?」
「いいけど、何にするのよ?」
「Nー、イロイロと」
その答えではよくわからないと抗議しようにも、息子の気配と紙箱は早々と消えていた。







ノリツッコミでGO









今日は蒸し暑い。
先に風呂を貰ってベランダに出てみたけど、外の空気も中とそう変わりないみたいだ。

部屋に戻り、扇風機の風にあたっていると、
猪里が風呂から出てきた。
腰にバスタオル巻いただけの姿で。

猪里の部屋の風呂は1ルームマンションによくあるタイプのユニットバスで、
風呂の換気扇を廻したって、こう気温が高いと遣り過ごせるものじゃない。
そんな熱気+蒸気地獄のようなバスで体を拭いても、後から後から汗が吹き出てくるだけだから、
猪里みたいな格好で出てくるのが正解かもしれない。

「独り占めすんな」
扇風機の首が廻るように後ろのスイッチを押し、床に腰を下ろした。
後ろに手を付いて、膝を軽く立て風にあたっている。

「猪里チャン、そうズドーンと直球で来られてMo」
「何?直球て」
「だかRa、目の遣り場に困ると言うKa」
「はあ?」
「恥じらいが無いと言うKa」
口ではこんなコト言ってるオレだけど、ほんとはこの姿に結構キてる。
バスタオルはずり下がり気味に巻かれてるから、可愛い臍が覗いてるし。

「男の俺にそげなもん求めるお前が、ちかっぱわからんたい」
「求めたいのNi」
「見苦しいて言いたいと?」
気怠そうに肩越しに睨んできた。

---Wow、セクスィ~

「マサKa!猪里体のライン綺麗だSi、肌プリップリでビーチクなんてピンクだSi、んで、ち
「あ゛ーもう!ソコは見えてなかろーも!」

猪里は立ち上がって冷蔵庫からスポドリの入ったペットボトルを出し、飲んだ。
白い首の上下する喉仏にしばし見蕩れる。

飲み終え、冷蔵庫にペットボトルを仕舞うと、
猪里は流しの下を開け、米を計って炊飯器の釜に入れた。
米を研ぎ、水加減した後、炊飯器のタイマーをセットすれば、
明日の朝にはほっかほかの飯が炊きあがるって寸法だ。
たぶん明日の朝は叩き起こされて、
朝飯、昼飯、おやつ用の大量おにぎりを一緒に作らされる……ハズだ。

猪里は無防備にもバスタオル一丁で、しゃかしゃかと小気味良い音を響かせながら米を研ぎ始めた。
小刻みに揺れる腰がタマラナク悩ましい。

---チャンスDa。

例のブツは、タンスの引き出しの底に突っ込んである。
音を立てないように開けて探ると直ぐ見つかった。
冬物を仕舞ってある引き出しだから見つからないとは思ってたけど、無事でヨカッタ。

猪里の後ろにそっーと立つ。
オレが台所に立つ猪里に後ろからちょっかい出すのは毎度の事だから、気にしてないみたいだ。
ま、あんまり纏わり付くと「ウザか!」って怒られるけど。

「何合焚くんDa?」
「六合っちゃよ」
一人暮らしの猪里は、四人家族のオレん家より大きな炊飯器を持ってる。
五合炊きじゃ足らないと実家に訴えたら、一升炊きを送ってきたそうだ……信じられねぇ。
「多くねーKa?」
「明日試合っちゃよ?多いーこつなかたい。お前の分もあるんやけんね」
「オレの分もあんNo?うれC-!」
少しばかり良心の呵責に苛まされ、胸の奥がちくっとした。
心の中で「猪里ゴメN」と手を合わせながら、手に持ったブツを素早く猪里の腰に回す。
「何しょーと?」
聞きながら、猪里の視線は自分の手先に注がれた儘だ。
猪里の実家は農家で、食べ物を粗末に扱うことなんて御法度だから、
米粒を流さないように注意深く米を研いでいる。
「N?水が跳ねて汚れないようNi」
電光石火の勢いで紐を後ろで固く結んで、脇から手を入れ猪里の胸に布を押し当てる。
「タオルやろが」
肩紐を肩に上げて背中に回す。
「Eーから」
それをバッテンにして腰のボタンに止めたら出来上がり。

「ちょっ、何コレ?」

---今頃気付いても、遅いZe。

石鹸の香りがするうなじにキスすると、擽ったそうに肩を竦めた。

おっと、邪魔なタオルを取らなきゃな。


しゅる。で、ポイ。


「虎鉄!」


振り向いた猪里から飛び退き、
嘗め回すように眺める。

---スゲェ、Eー眺め !!!

そう、猪里が素肌に僅か一枚身につけているのは、
胸元と裾のフリルもフリフリと愛らしい純白のエプロンだ。

「猪里、カワEー」

「何、コレ?」
自分の姿を確かめるように下に視線を走らせた。

「言ったら、怒るだRo?」
「……場合によるっちゃね」
腕組みをして睨んできた。

「それでは、とりあえず言わせていただきまSu ……コホン」
「勿体ぶらんでいいけん、はよ言え」

オレは心の中でファンファーレを奏でた。
(この可愛さはホント、十二支高校吹奏楽部を呼んでド派手に演ってもらいたいくらいDa!)
そして大きく両手を拡げて、高らかに言い放った。


「猪里チャンの裸エプロン produced by 虎鉄大河!

 男のロマンを、Sexy且つCuteに表現してみましTa !!!」


















「虎鉄」

「Haい?」

「お前の頭ん中はどげな風になっとーとかいな?いっぺん見てみたかばい」
「見ても猪里の頭の中とそんな変わんないっTe」

「そげんこつなか!いっぺん見してみい!」

---あ、ヤバ、殺されるかMo。頭カチ割られるかMo!

思わず首が竦んだけど、猪里は脳天唐竹割りを叩き込むのは後回しにしたらしく、無事だった。
その代わり、我と我が身を繁々と眺め始めた。

「こげなカッコさせよって、俺に何せえ言うとや?」

エプロンの太腿辺りを片手で摘んで、顔を上げた。
大きな目が、悪戯っぽくクリッと動いてオレを捉えた。
それだけでも、オレにとっては充分過ぎたみたいで、
「ちょっと前屈みにならせて貰って良いでしょーKa?」
って許しを請わなきゃいけない程キてしまったというのに、
猪里は何をするかと思えば、体を捩ったのだ。

フリフリエプロンの裾を揺らしながら、
そう、品まで作って言ったのだ。

……セクスィ~に。




「イ、ヤ~ン、虎鉄んえっちぃー☆……とか?」




台所をバックに……

コクンと小首を傾げて……

はにかんだみたいなカワEー笑顔を浮かべて……

膝小僧の上で、白いフリルがふわ~りと揺れて……








「いのり…………」










「何ばやらせよっとね!こんあんぽすがっ !!! 」



凄みのある怒声に我に帰った。
もう暫くの間、見渡す限り一面のお花畑で見たこともない蝶々と戯れていたかったのに。


---えー、コレは俗に言うノリツッコミというヤツですKa?

   …………?

   ……Oh、この際そんなコトはどーでもEーんDa!


「猪里ぃ~~~、Na、も一回やっTe?『I、Ya~N、虎鉄んえっちぃー☆』Te!」

「するか!」

「お願いだかRa!」

「お前、くらさるーぞ?」

猪里のお祖父さんは空手の有段者で、猪里は小さい頃から習っている。
情けないことに腕っ節の強さでは到底敵わない。

「ちぇー……」

猪里は後ろに手を回し、早くも紐を解こうとしている。

「これどげん括ったと?解けんやん!」
イライラしている。

---きつーく固結び三回位してリボン結びにしたから、たぶん解けないと思うけDo。

「解いてやるYo」
「はよ取って」

---……シメTa。

後ろを向いたけど、尻を見られるのが恥ずかしいのか、薄くて少ない布で隠そうとする。


---そんな仕草を見せられたら、もうオレは止まんないZe?