せっかく埼玉から遙か西の地にいるのに、猪里は課題をやると言う。
「はよやらんと、片づかんめーもん」
「ちぇ、つまんNe」
「持って来ぃ言うたやろ、忘れたとね?」
「持ってきたZe」
「なら、さっさと出す!」








24時








炬燵の上にプリントやワークを拡げ、げんなりしていると、
救いの神が現れた。
ゲームしたいと言うマサ兄に縋り付き、かなりの量と思われる課題をやっつけに掛かる。
「なして俺、お前らの課題みてやらんばいかんとよ?」
不服を二人して聞き流し、現国へ数学へと駆り立てた。
トシに覗き込まれ、
「これ間違っとうよ?俺でちゃ書けるばい、こげな漢字」
などと屈辱的なことを言われる。
隣の猪里は笑いを噛み殺しているが、
「猛臣、ここさっきと同じ解き方でよかとぜ。何回同じ間違いするとね?」と
マサ兄にダメ出しされていた。

「もう、こんぐらいにしとく?」
「おうYo」
猪里は立ち上がり、台所へ消えた。
小腹も減ったし、さっきから漂っている甘い匂いが気になっていた。
台所からちょこんと顔を覗かせ、猪里は聞いた。
「虎鉄、汁粉食うやろ?」
「食べRu!」

「よう頑張りんしゃったねぇ」
お祖母さんは微笑み、お盆からお汁粉を取り並べてくれた。
「おかわりしんしゃいね、まだうんとこあるけんねぇ」
「ご馳走になりまSu。」
猪里がオレの好物を伝えておいてくれたんだ、などと決めつけ頬が弛む。
なぜか隣にはいつの間にかトシが座って、お汁粉にがっついていた。
猪里はと見ると、トシの向こうで知らん顔して啜っていた。

美味しくて、程良い甘さが酷使した脳の隅々まで染み渡っていくみたいだった。







長い紅白歌合戦の合間に風呂にも入り、
(マサ兄とトシが演歌歌手が続くあたりで風呂に入りたいと言って揉めたけDo)
炬燵でまったりしていると、
TVの画面にはどこかの寺が映し出され「行く年来る年」が始まったようだ。
「もぅ、寝ん?」猪里はさっきから欠伸してて眠そうだ。
「そーだNa」

洗面所に並んで立って歯を磨いた。
棚にある小さな時計に目が留まった。

「この時計合ってんNo?」
「それ、電波時計とかゆうやつやけん合っとるよ」

口を濯いで軽く拭けば、あとは二階に上がって寝るだけだ。
出ようとする猪里の手を掴んで引き寄せた。

「なんね?」
「Na、見てみ?あと1分切ったZe。今年も終わりだZe?」
「そうっちゃね」
「だかRa……」

抱き寄せてキスをする。

「っん……誰か来よるけん」
「もうちょっTo」

秒針が12時を回ったのを目の端に留め、
今度は深く口付ける。

髪の中に手を入れ弄り、柔らかな髪の感触を愉しみながら、舌を絡ませる。
一日中猪里と居られるのに、触れられないもどかしさに悩まされていた。
ともすれば際限なく高まっていきそうになる熱をどうにか押さえ込み、
ゆっくりと唇を離した。

「明けましTeおめでとう」

「……おめでとう」

「今年初めてのキスだZe?」

「歯磨き粉の味っちゃね」

額をくっ付けて、くすっと笑う。

「今年もよろしくNa」

「ん、よろしく」